研究課題/領域番号 |
16H06803
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
佐々木 秀綱 一橋大学, 大学院商学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (90779539)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 経営学 |
研究実績の概要 |
本研究は,権力(power)が人間の判断および意思決定に与える影響について検討するものである.特に,権力を持つ者や持たざる者に生じる主観的な感覚,すなわち社会的勢力感(sense of social power)に主眼を置き,その高低によってどのような心理的影響が生じるかを実験によって検証することを目的とする. 平成28年度は,勢力感の心理的効果に関する既存の研究を整理し,それに基づいて複数の実験を計画・実施した. 既存研究のレビューからは,勢力感の効果に関して次のような点が明らかになっている.第1に,勢力感が高まることによって,認知的情報処理過程における短絡性や,対人関係における自己本位性が高まる可能性があるという点である.これらは,社会情緒的な配慮や理性的な思惟が求められる組織のマネジャーにとって,必ずしも好ましくない.しかし第2に,こうした効果は,当人の公的権力観,すなわち権力に付随する義務や社会的責任を認識している程度に応じて調整される可能性があることが近年の研究から示唆されつつある. こうした既存研究の議論を踏まえ,勢力感の効果に関する実験を計画・実施した.具体的には,勢力感が利他的行動に与える影響,およびその調整要因としての当事者意識についての実験を実施している. 上記の研究成果に基づいて,学会での報告および論文の執筆・投稿を行っている.既存研究のレビューからは,勢力感に関する心理学的知見を組織論に位置づけて論じた論文を執筆し,査読誌にて公刊された.また,実験の成果については,平成29年度中の公刊に向けて論文執筆を行っているほか,国内の学会での報告を予定している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,勢力感に関する既存研究の整理および2~3程度の実験を実施することを計画していた. 既存研究の整理に関しては,当初の計画通りに進めることができた.平成28年度中に社会心理学や組織行動論の領域における文献の探索を行い,従来の勢力感研究の成果を組織論と接合することを試みたレビュー論文を執筆した.当該論文は『一橋商学論叢』(査読有)12(1)にて公刊されている. 実験についても,概ね順調に推移している.当初の研究計画では勢力感が判断および意思決定に与える影響のみを検証する予定であったが,既存研究のレビューおよび予備実験の結果などを踏まえて,勢力感の調整要因等も含めた検討を行うこととした.H28年度中には,勢力感が利他的行動に与える影響,およびその調整要因に関する実験を2度実施し,研究を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,引き続き勢力感に関する実験を実施することに加えて,研究成果の報告・公刊の機会を増やしていく予定である. 実験の実施については,勢力感が判断・意思決定に与える影響について検証するための実験と,そのような勢力感の心理的効果を調整する要因についての探索的な実験の実施を予定している.実験は研究代表者の本務校にて実施する予定であり,すでに研究協力者に内諾を得ている. 研究成果の報告・公刊については,主に学会報告と論文の投稿を引き続き行っていく.平成28年度に実施した実験の内容は平成29年度組織学会研究発表大会(於滋賀大学)にて報告を行う予定であり,また並行して論文化を進めている.また,平成29年度に実施する予定の実験についても,経営学ないし心理学領域の学会にて報告を行っていく予定である.
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