本研究は,組織における権力(organizational power)が人間の判断および意思決定に与える影響について検討するものである.特に,権力を持つ者や持たざる者に生じる社会的勢力感(sense of social power)に主眼を置く.近年の社会心理学および組織行動論における研究では,社会的勢力感は個人の心的過程に様々な影響を及ぼすことが明らかにされつつある.本研究では,こうした領域からの知見を基盤として,権力が個人の思考や行動に与える影響を明らかにすることを主たる目的とする. 平成29年度は,社会的勢力感が認知バイアスの発現傾向に与える影響を検討するための実験を実施した.より具体的には,確証バイアスやアンカリング効果,フレーミング効果,連言錯誤,埋没費用の誤謬といった認知バイアスが,勢力感の高揚によって発現しやすくなるという仮説を検証した.実験の結果からは,当該仮説が部分的な支持を得た.すなわち,上記の認知バイアスのうち確証バイアスと連言錯誤は,勢力感を一時的に高められた条件の参加者において発現しやすくなるという結果が得られた.このことは,組織の活動に大きな影響力を持つ権力者が,自身の既存の態度や信念に過度に固執して経営上の判断や意思決定に携わる可能性を示唆するものである.実験から得られた内容については現在論文化を進めており,近日中に速やかに査読付き学術誌へ投稿することを予定している. また平成29年度は,上記の実験の実施に加えて,補助事業期間中に得られた他の研究成果の発表活動を行った.国内の査読付き学術誌へ投稿を行い採択されたほか,国内学会での研究報告を行った.
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