筆者は口唇口蓋裂患者において、患児本人の羊膜をその治療に応用することを検討している。本研究では、自家組織の応用というメリットを最大限に活用するため、健常児と口唇口蓋裂患者の羊膜および羊膜由来細胞の性質に相違がない(少ない)ことを確認し、患児本人由来の羊膜を治療へ応用することの実効性を検証することを目的とした。本研究期間内では、口唇口蓋裂患児由来の羊膜は一個体分のみ入手可能であった。同時期に採取した健常児由来羊膜とともに、入手した羊膜を辺縁部と胎盤部に分別したのち、形態学的観察のため保存するとともに、乾燥処理を施してハイパードライ羊膜の作成を行った。健常児の羊膜および、それを用いて作成したハイパードライ羊膜をコントロールとしてその形態的・物理的性質について比較を行った。形態学的観察上では、羊膜の各部位で患児・健常児由来の羊膜間で明らかな相違点は認められなかった。乾燥羊膜の物性試験を行ったところ、引っ張り試験でも両者で同様な引っ張り強度が認められた。また、両者由来の羊膜間葉系細胞におけるEGF,PDGFの発現も確認したところ両者の差は少ないと思われたが、検体数が不十分なため統計学的処理には至っていない。今後検体数を確保しながら、透過試験などの物性試験を追加するとともに、両者由来の間葉系細胞の生物学的性質に関する検討を継続する予定である。現時点では,当施設内のみでは十分な数の患児由来羊膜の入手は容易でない可能性があるため、今後、当院のみならず、連携各施設で羊膜の入手が可能となるような体制作りが必要と考えられ、その対応をすすめている.
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