本研究の目的は、悪性度の高い子宮体癌の発症要因を、遺伝子改変動物を利用して明らかにすることである。 まずはじめに、悪性度の高いヒト子宮体癌においてp53遺伝子の変異が高頻度に認められることから、本研究ではCre-loxPシステムにより、子宮上皮選択的にp53遺伝子を機能的に欠損したマウス及びミスセンス変異したp53遺伝子を持つマウスを作製した。しかしながら、これらのマウス子宮を経時的に解析した結果、加齢に伴う子宮上皮の嚢胞性変化しか認められなかったため、p53遺伝子の欠損あるいは変異だけでは子宮体癌は発症せず、別の発癌ドライバーが重要であることが示唆された。そこで次に、p53 遺伝子変異に加え、発癌ドライバーと予測される活性型のPI3KとサイクリンEを子宮上皮で過剰発現させるために、トランスポゾンベクターシステムを用いて子宮上皮へ直接遺伝子を導入する系の構築を試みた。遺伝子導入は、リポフェクション法とエレクトロポレーション法の2つを用いたが、遺伝子の導入はみられたものの、いずれの手法でも長期の安定的な遺伝子発現は確認できなかった。培養細胞にトランスポゾンベクターシステムを用いて遺伝子導入をした場合は、非常に効率的な導入と長期的な遺伝子発現がみられたことから、in vivoでの遺伝子導入に関してはさらなる検証が必要である。 次に、初期のヒト子宮体癌においてPten遺伝子変異が高頻度に認められ、さらにこのタイプの子宮体癌がエストロゲンによって進行することが示唆されていることから、既存の子宮体癌モデルである子宮特異的Pten遺伝子欠損マウスとエストロゲンの関係について解析を行った。その結果、卵巣除去後に生理的エストロゲン濃度のうち特に低濃度で長期暴露することによって、癌細胞の子宮筋層への浸潤能が高まることが明らかになり、エストロゲンが確かに子宮体癌進行の憎悪因子となり得ることを明らかにした。
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