研究課題
軟骨無形性症は長管骨の成長障害をきたす難病のうちで最も頻度が高い疾患であり、FGFR3遺伝子の点変異が原因であると考えられている。これまでの研究では間葉系幹細胞特異的Erk5欠損マウスの表現型がFGFR3欠損マウスの表現型と高い類似性があることを見出した。そこで本研究課題では、①Erk5シグナルによる内軟骨性骨化の制御メカニズムについて明らかにし、②FGFR3とErk5のシグナルクロストークが軟骨無形成症の発症、進展においてどのくらい重要であるかを明らかにすることを目的とする。本年度は間葉系幹細胞特異的Erk5欠損マウスの詳細な表現型の解析、Erk5シグナル下流遺伝子の同定とその軟骨細胞での機能解析を行った。骨格形成におけるErk5の重要性を検討するため、胎児骨格標本を作製し観察した。その結果、Erk5欠損マウスでは頭蓋冠の形成不全、四肢の長管骨の肥大、指の骨の骨化不全が観察された。また、Erk5欠損マウスの表現型のメカニズムをin vitroで検討するため、Erk5欠損細胞において変化が見られる骨格形成関連遺伝子の網羅的解析を行った。その結果、Sox9のmRNAとタンパク質の発現上昇、Smad1/2/3とSmurf2のタンパク質発現が上昇していた。また、Erk5はリン酸化キナーゼであるため、変化の見られた各タンパク質と、Erk5をin vitro kinase assayにより反応させ、Erk5の基質となるかを検討した。その結果、各タンパク質の中でSmad1、Smurf2リン酸化が上昇し、Erk5の基質となる可能性が示唆された。Smurf2、Smad1はSox9上流に存在する因子であり、Sox9は骨格形成に必須の因子であることから、以上の結果よりErk5欠損マウスではSmurf2、Smad1を介したSox9発現の異常により、骨格形成に異常を起こす可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
間葉系幹細胞特異的Erk5欠損マウスの骨表現型の異常を詳細に解析することができた。また、Erk5下流のシグナルとして、Smad1、Smurf2をErk5の基質として同定することができ、これをもとにしてErk5欠損マウスの骨表現型を回復させる因子の候補を同定することができた。また、Erk5欠損マウスに骨関節疾患モデルを適用する実験では、複数のモデルを適用し、病態に変化があるかを観察することができた。これらの成果は当初計画していた予定を大きく超えた成果であり、研究課題は順調に進展しているといえる。しかし、2年目の研究計画に予定していた軟骨無形性症患者由来iPS細胞や、FOP患者由来iPS細胞を1年目に入手する予定であったが、RIKEN cell bankからの入手が遅れており、2年目の実験を着手できていないのが現状である。そのため、iPS細胞を用いた実験は一時的に保留しており、その他の実験を優先している。これらの状況を鑑みて本研究課題の進捗状況を(2)と判断した。
今後はiPS細胞の入手が遅れているため、それ他の実験を優先して行う。Erk5欠損マウスの表現型を回復させる因子の候補を発見したので、これをErk5欠損マウスに導入し、表現型の回復が実際に行われるのかを検討する予定である。骨関節疾患モデルを適用したErk5欠損マウスにもこれらの因子を導入し、病態が回復するかを検討する。また、上述のように軟骨無形性症の原因の一つとしてFGFR3の点変異による活性化が報告されている。間葉系幹細胞特異的Erk5欠損マウスの表現型はFGFR3欠損マウスの表現型と類似しているため、Erk5とFGFR3のシグナルクロストークを解析する。間葉系幹細胞にFGFR3活性化型を導入した、軟骨無形性症モデル細胞を作成し、Erk5の活性化の状態を測定する。また、作製したFGFR3変異細胞にErk5阻害剤、Erk5活性化型、不活性化型変異体を導入し、軟骨細胞への分化の異常が回復するかを検討する。
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