研究実績の概要 |
これまで計43症例の脂肪組織サンプルを用いて、脂肪組織内に含まれる間葉系幹細胞分画の患者間格差について解析を進めてきた。患者臨床データ、ならびに幹細胞解析結果を統計学的に解析することで、我々は患者のインスリン抵抗性に伴ってNGFR陽性細胞分画が減少していることを見出した。そこでインスリン抵抗性において惹起される脂肪組織慢性炎症がこのような幹細胞数の変化が寄与しているのでは、との仮説の下、脂肪組織慢性炎症と幹細胞分画の関係についても解析を行った。脂肪組織慢性炎症は炎症リモデリングマーカーの遺伝子発現 (Mac-3, TGF-β1, p53など)ならびに脂肪組織マクロファージの炎症性ポラリゼーションにより定量化を図った。脂肪組織の炎症は、NGFR陽性細胞数と有意な負の相関を示した(ESC Congress 2016にて発表)。この細胞分画の多寡が、培養幹細胞の増殖能や幹細胞マーカー(Nanog, Oct3/4, SOX2)の遺伝子発現にも大きな影響を与えていることを確認した。加えて、培養上清に分泌された各種増殖因子(VEGF-A, SDF-1, HGF, FGF2)のタンパク濃度をELISA法により測定したところ、NGFR陽性細胞の多寡はVEGFの分泌能にも影響を与えていることを確認した。 我々は、これらの結果を下にNGFR陽性細胞の多寡が血管新生能に与える影響について、in vivoモデル (免疫不全マウスに下肢虚血モデルを作成し、ヒト由来幹細胞の血管新生効果について検討する)に於いて検証を進めており、いくつか得られた知見の発表報告を行った(AHA Scientific Sessions 2016にて発表)。
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