研究課題/領域番号 |
16H06836
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
矢部 竜太 信州大学, 学術研究院社会科学系, 講師 (60779164)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 計量経済学 / 時系列解析 / ノンパラメトリック統計学 / セミパラメトリック統計学 |
研究実績の概要 |
説明変数が一変量非定常確率過程に従い、共変量関数はパラメータに依存する未知の関数とするセミパラメトリック回帰モデルにおける共変量関数の推定問題の研究を行った。具体的には、未知な共変量関数に対して頻繁に用いられるNadaraya-Watson推定量の一様収束の導出と一様収束を保証するために必要な比較的弱い条件を導出した。これはChan and Wang(2014)で考えられていたノンパラメトリック回帰モデルの結果のセミパラメトリック回帰モデルへの拡張であり、セミパラメトリックモデルの推定理論への応用が期待される。 また、説明変数が一変量非定常確率過に従うノンパラメトリック回帰モデルを扱い説明変数を冪乗変換したNadaraya-Watsonタイプのカーネル推定量の収束レートに関する研究を行った。この結果は上で述べたセミパラメトリックモデルにおける推定問題の研究の副産物として得られたもので、説明変数の冪乗をカーネル関数により変換させることによりノンパラメトリック統計学の分野で頻繁に用いられるNadaraya-Watson推定量よりも収束レートが早い推定量を構成出来ることを示した。変数変換による収束レートの改善はノンパラメトリック統計理論では今まで観測されておらず理論的に興味深い結果である。また、Nadaraya-Watson推定量よりも収束レートがよいため実際のデータへの応用も期待出来る。 以上の研究はUniversity College London と Aarhus Universityでの研究滞在中に行われた議論により大いに進展した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
説明変数が一変量非定常確率過程に従い、共変量関数はパラメータに依存する未知の関数とするセミパラメトリック回帰モデルにおける共変量関数の推定問題の研究を行った。具体的には、セミパラメトリック回帰モデルの共変量関数に対するNadaraya-Watson推定量の一様収束と漸近分布を与えた。 この研究の副産物として非定常非線形ノンパラメトリック回帰モデルに対してNadaraya-Watson推定量よりも収束レートの早いノンパラメトリック推定量を提案することができた。新たに提案した推定量はデータに冪乗変換を用いたもので横断データではBox-Cox変換に対応している。非定常非線形回帰モデルではNadaraya-Watson推定量などの局所多項式推定量を使うことが一般的であるが、これらの推定量よりも収束レートが改善されるため多くの実証研究でこの推定量が用いられることが期待される。 また、Nadaraya-Watson推定量などの局所多項式推定量よりも収束レートのよい推定量は横断データなどでは存在しないため、非定常確率過程におけるノンパラメトリック推定固有の現象であると考えられる。従って、この結果は統計学の実用上・理論上において大変興味深い結果である。セミパラメトリック回帰モデルにおける推定理論の研究については順調に進展している上に、計画では想定していなかった新たな推定手法をノンパラメトリック回帰モデルにおいて提案することが出来たため当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は一変量な非定常確率過程を説明変数とする共変量関数はパラメータに依存する未知の関数とするセミパラメトリック回帰モデルにおける共変量関数の推定問題の研究を行った。平成29年度では理論的な関心として(I)一変量で得られた結果を多変量への拡張を行い、平成28年度の得られた結果を発展させるために(II)非線形非定常回帰モデルにおける推定量の最適な収束レートの導出、応用として(III)GARCH-Xモデルの推定問の研究を行う。 具体的には、(I)多変量非定常確率過程の非線形変換の漸近理論の導出を行う。これは、Jeganathan(2004)とChan and Wang(2014)の多変量への拡張に対応している。 (II)一変量の非定常ノンパラメトリック回帰モデルにおける冪乗変換を用いた推定量の提案を平成28年度に行い、Nadaraya-Watson推定量よりも収束レートが早いことを示した。しかし、提案した推定量のレートが最適なものなのかどうかは未知の問題である。この問題を解決するためには、一変量の非定常ノンパラメトリック回帰モデルにおける実行可能な推定量の最適な収束レートの導出が必要である。そのため、平成29年度ではStone(1980)などで行われていた最適な収束レートの導出を非線形非定常回帰モデルにおいて考察する。 (III)平成28年度得られたカーネル推定量の一様収束の結果を用いてボラティリティが非線形非定常な確率過程に従うGARCH-Xモデルのボラティリティの推定問題の研究を行う。また、為替レートなどの経済データを用いて実証研究において提案した推定手法が有効であることの確認を目指す。
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