研究実績の概要 |
前年度までに明らかにしたシート状Cuの成長メカニズムをもとに,ポリアクリル酸(PAA,分子量5000)の濃度を最適化し,面粗度が異なる3種類の粗面化基板を作製した(0.01M, 0.05 M, 0.1 M).これらをナトリウムイオン電池用高容量Sn負極の集電体として適用した.0.1 Mの濃度で作製した粗面化基板上に合剤層を塗布したものでは,Cuシートが活物質層内部まで突き刺さった状態であり,高い密着性が期待されたが,0.005-2.000 Vの電圧範囲で動作させたものでは,優位性は確認されず20サイクル後にほとんど容量を失った.そこで,Naの放出電位を制御することで,過度な体積変化を抑制し,サイクル安定性のさらなる向上を試みた(上限電圧を0.65 Vに変更).その結果,サイクル安定性が大きく改善された.ここで,重要なことは,粗面化基板を用いたものでは,初回サイクルから2サイクル目にかけてその容量が大きく増大したことにある.平滑基板では,2サイクル目にかけて,その容量が100 mA h g-1程度大きくなったのに対し,粗面化度が最も大きい基板では,210 mA h g-1も増大した.これは,基板上に成長したCuシートが合剤層内部まで突き刺さった状態であるために,集電性が改善され活物質の利用率が向上したためであると考えられる.実際に交流インピーダンス測定から,NaとSnとの合金化反応に起因する電荷移動抵抗が小さくなることを確認した.さらに,粗面化基板を用いたものでは,80回の比較的長いサイクル後においても従来の炭素系材料の2倍を超える容量を維持する優れた電極性能を達成した.充放電後の電極断面像から,平滑基板では大きな亀裂が見られたのに対し,粗面化基板を用いたものでは崩壊は認められず,本研究で作製した粗面化基板の集電体としての有用性が見出された.
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