本研究の目的は,72時間以内での迅速架橋を目的としたシザーズ型緊急橋「モバイルブリッジ」を対象に,その動力学特性を解明し,さらには,被災現場における余震などを想定した激しい揺れに対する耐震性を分析することにある。 平成29年度は,平成28年度から引き続き実験橋を用いた振動実験のデータ照査から始め,(1) FEMモデルの妥当性,(2) パラメトリック解析に基づき固有値・固有モードの定量評価,(3) 実際の地震波を用いた地震応答解析を具体的に行った。項目(1)では,前年度の振動実験と固有値解析の結果を比較検証することによって,構築した解析モデルの荷重や境界条件の妥当性を示すことができた。なお実験・解析ともに低い振動数での水平方向の揺れが得られた。項目(2)では,妥当性の得られた解析モデルを基準に,橋のスパンや部材剛性を変化させることによる固有値・固有モードの変化を明らかとした。パラメトリック解析の結果より,シザーズ型緊急橋のスパンが延びるに従い,2次関数的に固有値が減少することが分かった。この結果に伴い,梁理論に基づく簡易な固有値の推定式を提案した。項目(3)では,兵庫県南部地震のようなレベル2地震動を採用した地震応答解析を行った。解析結果として,今回実施した範囲内では地震下においても,部材の降伏が確認されず,線形挙動に留まった。この理由として,床版を省略した骨組モデルでの検討であったため,展開構造物特有の伸縮動作が顕著に見られ,エネルギーが発散されたためだと考える。 今後の展望としては,床版のような伸縮動作を拘束する部材が存在する場合,シザーズ型緊急橋の力学特性の変化や耐震性能がどのように変わるかを明らかとする必要がある。また,格点部に生じる応力集中の影響なども検証する必要がある。
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