初年度に、アルキル側鎖をもつ立体障害が大きい2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオールを酸化する微生物(A株)を見出した。光学純度算出のために、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール(EMPD)の不斉酸化反応を行ったところ、この株は光学純度65%eeでR体のヒドロキシアルカン酸を生成した。
本年度は、この不斉酸化活性を担う酵素遺伝子の単離と異種発現による更なる機能評価進めた。まず、発現量の多い誘導発現タンパク質をプロテインシーケンスに供し、N末端アミノ酸配列情報を得た。次にA株の全ゲノム解析を行い、ドラフトゲノムシーケンスとN末端アミノ酸情報から、候補となる酵素遺伝子を2つ選抜した。これを異種発現し、諸性質を解析したところ、一方の遺伝子産物に不斉酸化活性が認められ、EMPD由来の生成物であるヒドロキシアルカン酸の光学純度は約30%eeで、S体を生成していた。 野生株と異種発現株の示す立体選択性が異なることから、A株は他にも不斉酸化酵素を有すると示唆された。そこで、誘導・非誘導条件それぞれでA株を調製し、プロテオーム解析に供した。得られた情報から複数の候補遺伝子を選抜し、これら候補遺伝子を異種発現した。同様に光学純度を算出したところ、複数の遺伝子発現株においてR体選択性を確認した。なかでも、上述のS体選択性を示す酵素をコードする遺伝子の近傍に存在するアルコール脱水素酵素を見出し、この近傍遺伝子を発現した株では、90%eeでR体を生成した。 現在、前述の最も立体選択性の高い酵素遺伝子産物を用いて、基質特異性等特徴解析を再度行うとともに、最終的な酵素法確立に向けて、種々のヒドロキシアルカン酸生産研究を遂行している。
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