本研究では,戸籍情報や人口動態統計が十分ではない発展途上国における死因分布を推定するための新たなベイズ統計手法の開発を行った.提案したアプローチでは,社会調査データにおいて頻繁に発生する欠損値に対して特別な補完処理を必要とすることなく,100以上もの症状データのモデル化を行い,口頭剖検による死因を統計的に予測することを可能とした.新たな枠組みでは,既存の統計手法において繰り返し仮定されてきた症状の条件付き独立性を取り除き,多変量プロビットモデリングを応用して症状間の複雑な相関関係を柔軟に表現している.さらに,推定すべきパラメータ数を削減するために,因子モデルを取り入れて計算時間の短縮化,推定結果の安定性を実現している.提案したベイズ統計モデルに対しては,マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いた効率的なパラメータ推定方法を開発した.また,多数ある症状変数の中で,死因と関わり合いが強そうなものを推定する方法も提案している.本研究で考案した統計手法に対して,Population Health Metrics Research Consortiumによる口頭剖検用死因データを用いて,地域全体における死因分布の推定精度の評価を行った.複数の現実的なシナリオの下,条件付き独立性を仮定する従来の統計モデルと比較を行った結果,提案したベイズ統計モデルの方がより正確に死因分布を推定できることがわかった.加えて,死因と質問項目との条件付き従属性の推定も行い,病歴などの一部の変数が死因との間に比較的強めの相関があることを示した.
|