研究課題/領域番号 |
16H06862
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
荒巻 吉孝 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (70779678)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | ラジカル触媒 / ホウ素 / 触媒活性制御 / チイルラジカル |
研究実績の概要 |
目的とするホウ素置換基の配位数変化によるラジカル中心の活性変化を検証するために、チイルラジカルの前駆体としてホウ素置換基を有するジスルフィドの合成を行った。このジスルフィドに紫外光を照射して反応系中でチイルラジカルを発生させ、これを分子内環化反応の触媒として用い、ホウ素の配位数変化とラジカルの活性変化の相関を評価した。その結果、ルイス塩基としてフッ化物イオンを添加した条件ではフッ化物イオン非存在下の条件と比較して触媒活性の向上が見られた。続いて、触媒量に対して添加するフッ化物イオンの当量を変化させていくと活性が変化し、触媒に対して3当量から5当量のフッ化物イオンを加えた条件下において最も活性が高くなることを見出した。このフッ化物イオンの添加量とホウ素の配位状態の関係を明らかにするために、触媒前駆体のジスルフィドに対してフッ化物イオンの当量を増やしながらホウ素NMR測定を行い、ホウ素の配位数変化と触媒活性との相関を明らかにした。 また触媒周りの立体構造が異なる数種類の触媒を合成し、上と同様の分子内環化反応を検討したところ、触媒周りの立体構造が生成物の立体構造に影響を与えることを明らかにした。 以上の結果は触媒上のホウ素置換基の配位数変化と触媒活性の相関を明らかにしたという当初の計画の仮説を強く支持する結果ではあるものの、ルイス塩基の有無によるラジカル触媒活性のオン・オフ制御にまでは至っていない結果である。そこで、ルイス塩基での非存在下での完全な触媒の失活を狙い、触媒周りを嵩高いボウル型置換基で覆った新たな触媒構造を設計し、その合成に取り組んだ。総収率が低いという課題は残っているものの、目的とする触媒前駆体のチオフェノールの合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はホウ素置換基を有するラジカル触媒前駆体を合成し、基質との当量反応においてホウ素の配位数変化をラジカル触媒活性の相関を明らかにする計画であったが、本年度中に触媒反応へ展開する段階まで進展した。特に触媒の反応機構解析において、触媒の基質との反応段階では4配位状態が有利であり、触媒の再生段階においては3配位状体が有利になる、という知見が得られたことは今後の反応設計において重要な指針となった。加えて、当初の計画にはなかった触媒周りの立体構造と反応生成物の立体構造の相関も明らかにしており、より高難易度の分子変換反応を実現できる可能性も見出したといえる。以上の理由から、本研究は当初の計画以上に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果は、ホウ素の配位状態の変化が触媒反応の各素反応段階に与える効果についての知見は得られたものの、この研究の最終目標であるルイス塩基の添加をスイッチとする完全な触媒のオン・オフ機構の確立までには至っていない。そこで今後は、本年度すでに合成に着手している嵩高いボウル型置換基を有する触媒反応の開発に着手する。加えて、ルイス塩基非存在下での触媒の不活性化をねらいラジカルホウ素上に電子求引性置換基を導入し、不対電子のホウ素上への非局在化効果の増大を目指す。この触媒構造の立体効果と電子効果の両方を最適化するアプローチにより、理想的なラジカル触媒反応の実現に挑戦していく。 また、今後はこのホウ素置換基によるラジカル触媒の制御機構をチイルラジカル以外のラジカルへの適用も行う。具体的にはこれまで炭素-炭素結合反応に適用されてこなかったフェノキシラジカルへこのホウ素による触媒制御機構を適用することで前例のないフェノキシラジカルを触媒とする炭素-炭素結合生成反応の達成を目指す。
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