研究課題/領域番号 |
16H06864
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村中 智明 名古屋大学, 理学研究科, 研究員 (50761938)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 光周性 / 概日時計 / 地域適応 / アオウキクサ |
研究実績の概要 |
本研究ではアオウキクサの限界日長と概日リズム周期との関連に注目している。同一水田から採取したアオウキクサにおいても限界日長の多様性が認められた。このことから、限界日長適応が単純な緯度依存性を示さないことが示唆され、様々な地域から複数の植物個体を採集する必要が生じた。そのため、アオウキクサにおける限界日長適応の詳細な解析も本研究の目的に加えることとした。また、アオウキクサは栄養成長で増殖するため、採集時に遺伝的別系統の個体を採取することが困難であるが、水はり直後の水田においては、発芽直後のアオウキクサが多数存在することが明らかとなった。そのため、採集時期をうまく選べば、遺伝的別系統を効率よく採集できると考えられる。 ゲノムが公開されているウキクサ(Spirodela polyrhiza)のゲノム情報を用いて、ウキクサ植物の時計遺伝子プロモーターを同定、クローニングし、異なる位相でリズムを示す発光レポーターを作成した。その結果、朝発現型のSpLHY、昼発現型のSpPRR5、夕発現型のSpGI、夜発現型のSpELF3の4種類の発光レポーターの作成に成功した。これらのレポーターを多数のアオウキクサ 系統に導入して発光リズムを測定することで、概日周期の変化が、どの位相で生じているかを明らかとすることができ、概日時計の多様性解析が大いに進展すると考えられる。 本研究に必要な、生物発光測定装置と遺伝子導入装置は所属研究機関のものを利用していたが、ともに入手するめどがたった。そのため研究機関を異動をしても、研究は問題なく継続できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
限界日長の地域適応については、同一緯度・地点における多様性など新たな課題が見つかったが研究期間内で対処できる。逆にアオウキクサの短期間での限界日長が決定できるという長所を利用することで、限界日長適応に関して新たな研究を展開できると考えている。また、アオウキクサにおいて位相が異なる概日リズムを示す発光レポーターの作成にも成功したことから、時計周期の多様性についての解析も計画通りに進めることができる。発光リズムの測定は計画に比べ遅れてはいるが、生物発光測定装置と遺伝子導入装置を入手するめどがたち、次年度から専有的に使用できるため研究期間中に一定の成果が出せると考えている。以上のことから、計画に比べ変更点はあるものの、研究は順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
年度の前半では、サンプリング地点を吟味した計画的なアオウキクサの採集を行い、限界日長適応の実像を明らかとすることを目指す。新たに採集されたアオウキクサに対し、限界日長と概日周期が示す負の相関がみられるかを確認する。さらに、アオウキクサに対し、次世代シーケンサーを用いたゲノム解析を行い、限界日長適応と概日時計変異との関連について、分子レベルでの知見を取得することを目指す。 研究機関を異動したが、発光測定装置を設置するめどはついている。さらに、異なる位相でリズムを示す発光レポーターの作成に成功しているため、周期変化が顕著なアオウキクサに対し発光リズム測定を行い、概日周期の変化が、どの位相の遺伝子の挙動変化で生じているかを明らかとする。この解析で同定された位相特異的な変化と限界日長の変化について考察を進めていく。 以上の知見に加えて、各サンプリング地点のアオウキクサのゲノム情報を比較することで、日本におけるアオウキクサの系統地理学を行い、限界日長の地域適応が時計の周期変化とどのように関連し進化してきたかを明らかとすることを、本研究の最終目標としたい。
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