【調査】これまで入手した未刊行資料や文献の分析と、都市部に住む経産婦へのインタビューをおこなった。20代~80代までの経産婦のうち、一定の傾向が見られたのは40代以下であった。特にいわゆる養生法といった習慣的な知識を持つと予想された60代後半以降では、戦争中におかれていた環境によって経験にばらつきがあった。どの年代も(少なくとも都市部では)、家の中で出産するではなく、病院などで出産するように「医療化」された出産を自明のものにしていたが、出産後の養生に関しては、それぞれの家庭で経験知に基づいた助言や指導がおこなわれている。また、不妊治療に着目すると、国家の管理が及ばない方法から、公的病院における代理母など最先端技術の利用が同時に存在している。20世紀を通じ、出産という私的な領域に国家や社会制度が介入し、管理していくようになったといえる現象と同時に、そこから逸脱する価値観もまた、矛盾をきたすことなく並存していることが明らかとなった。 【研究成果】本研究課題の成果を含む学位申請論文の完成に注力した。本研究課題の成果は学位申請論文の1章分であるが、論文全体を通じて、国家が医療制度を構築・管理する様相と、私的な領域にいる患者たちの実践との綱引きによって現在の医療が成り立っていることを明らかにした。6月に最終審査を受けることが決定している。 【今後の課題】南北分断期には、南北ベトナム両国で助産婦養成や助産院の建設が進んでいた。しかし、本研究ではそれらの動きの詳細を解明するまでには至らなかった。国家の管理下にある出産・助産の様相を明らかにすることで、その管理・関与の度合いを測ることができ、調査で見られた経産婦の経験のばらつきの背景をより理解できることとなると考える。
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