研究課題/領域番号 |
16H06888
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
権 正行 京都大学, 工学研究科, 助教 (90776618)
|
研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
|
キーワード | ホウ素 / アゾベンゼン / 縮環構造 / 柔軟性 / 電子受容性 / 凝集誘起型発光 / 共重合 / 近赤外発光 |
研究実績の概要 |
H28年度に取り組んだ研究について、①縮環型アゾベンゼンホウ素錯体の合成および収率改善、特異な光学特性のメカニズムの解明に成功し、続いて、②縮環型アゾベンゼンホウ素錯体が極めて強い電子受容性を有することを確認し、機能性モノマーとみなすことで共重合体の合成にも成功した。 ①について、アゾベンゼンをホウ素の四配位構造で縮環することにより、分子全体が縮環構造を有しながらも骨格が柔軟性を持つことが分かった。より詳細には、分子を励起することでアゾベンゼンの窒素-窒素二重結合が伸長し、そのひずみを解消するため分子全体が湾曲するという現象が観測された。縮環構造でありながらも柔軟性を有するという性質は、環境応答性材料として有利な特徴である。つまり、この骨格の柔軟性こそが分子運動を可能にし、凝集誘起型発光特性など特異な光学特性の原因となっていることが分かった。 ②について、窒素-窒素二重結合有するアゾベンゼン骨格自体が電子受容性を有しており、ホウ素原子によりその特性がさらに強化されることが明らかとなった。この縮環型アゾベンゼンホウ素錯体をπ共役系における電子受容性ユニットとみなすことで、電子供与性ユニットであるビチオフェンとの共重合化を試みた。その結果、電荷移動性の発光挙動を示し、高効率な近赤外発光特性を示すことが判明した。同様の骨格を有する炭素-炭素二重結合では近赤外発光特性を得ることは困難であるため、窒素-窒素二重結合へと変換することで、炭素原子と相補的な物性が発現可能であることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の研究計画である「縮環型アゾベンゼンホウ素錯体の特性解明」および「モノマーおよび高分子合成法の確立・物性評価」についてはほぼ完了している。研究内容については、概ね計画通りに進行しており、「縮環型アゾベンゼンホウ素錯体の特性解明」については、吸収・発光スペクトル測定による解析結果と量子化学計算の結果を活用し、凝集誘起型発光特性や強い電子受容性のメカニズムの解明を行うことに成功している。また、「モノマーおよび高分子合成法の確立・物性評価」については、モノマー合成を計画通りのスキームにより、高収率で達成することができている。さらには高分子化においても順調に検討することができている。具体的には中性条件下において重合がうまく進行することが判明しており、現在コモノマーの選択について検討しているところである。得られた高分子においては、低分子(モノマー)と比較して予想以上に高効率な発光特性を示すことが分かった。この現象については、高分子化による分子運動の抑制が直接的に絡んでいることが予測され、高分子化の1つの特徴ではないかと考えている。また、窒素-窒素二重結合の発光高分子中における役割も理解できつつある。本研究成果は3件の国内学会、1件の国際学会における口頭発表として報告しており、国内外ともに良い反響を得ている。 以上の結果より、研究が計画通り進行しているとともに得られた結果については予想以上に興味深い知見が得られたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
H28年度において、モノマーとなる分子の基礎的物性および高分子化における手法と物性評価を行うことができた。H29年度は応用物性に焦点を当て、研究を行うとともに、得られた結果をフィードバックさせ窒素-窒素二重結合、ホウ素原子が高分子にもたらす効果について明らかにする。具体的には以下の2つの課題について取り組む。 「高分子材料を用いた素子の作成および電子移動度の測定」については、昨年度の研究で得た基礎的物性データを基に、バルク材料において、分子構造に由来する機能発現の関係性を明確にする。吸収・発光スペクトルだけでなく、キャリア移動度を測定することによって共役系が連続したπ電子系の特徴を探っていく。その中で高分子材料特性としての窒素-窒素二重結合、ホウ素原子が果たす役割をより明確にしていく。 「さらなる機能性モノマーの開発」については、一連の合成から機能評価へのプロセスを整えた上で、分子設計を最適化し、機能面の強化を図る。具体的には、縮環型アゾベンゼンホウ素錯体の基本構造に変化を加えていくことで、その特性を厳密に制御することを目指す。つまりは、分子構造がデバイスの特性に与える影響を評価し、またそれらの要素を明確に分離する。例えば、平面外に張り出した四配位ホウ素上のフッ素原子を変換することで、ホウ素上の電子状態や分子間のスタッキング構造を変化させることができ、単分子だけでなく高分子に対しても集合状態や光学特性の変化をもたらすと考えられる。 想定される問題点としては、高分子化に伴い異性体が分離できないことが挙げられる。これは、縮環構造である五員環と六員環の位置関係が前後することに由来し、オリゴマー合成を行うことで、高分子主鎖構造への影響を検討する。
|