研究課題/領域番号 |
16H06889
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
栗山 怜子 京都大学, 工学研究科, 助教 (70781780)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 熱工学 / 光レオロジー流体 / ミセル水溶液 / 粘弾性測定 / 伝熱特性 / 圧力損失 / 流動構造 / 光照射 |
研究実績の概要 |
本研究は,微小流れ場における時空間的かつ能動的な流動制御の実現に向けて,可逆的な光異性化反応を呈する光レオロジー流体 (PRF)の開発,ならびに,光刺激による流動特性・伝熱特性の制御メカニズムの解明を行う.上記を目的として平成28年度に実施した研究の成果について,詳細を以下に記す. 【①光刺激に応じて分子構造が可逆的に変化する感光性物質を含むPRFの作製】:トランス型⇔シス型の光異性化反応を可逆的に起こす感光性物質としてアゾベンゼンジカルボン酸(ADCA)を選定し,界面活性剤水溶液(CTAB)と混合したPRFを作製した. 【②作製したPRFの粘弾性測定】:作製したPRFのUV-Vis吸収スペクトルから粘弾性変化に関わる照射光波長を推定した後,水銀ランプを用いてPRFへのUV光・可視光照射を行った.光照射前後のPRFについてレオメータによる粘弾性測定を行った結果,波長に応じてPRFの緩和時間が可逆的に変化することが確認された. 【③熱流動特性評価用の実験装置の構築と実験方法の確立】:ミリスケールの蛇行流路を用いた流動場測定用装置ならびに伝熱実験用装置の構築を行い,ニュートン流体であるスクロース溶液を用いて実験系・実験手法の妥当性を確認した.その後,実験的な取り扱いが容易なPRF(不可逆な粘弾性変化を呈するPRF)を利用して,PIV(粒子画像流速計)による速度分布計測や,染料による流脈線の可視化,熱伝達率・圧力損失測定を実施した結果,光照射条件に応じて熱流動特性が変化することが確認された.更に,流れ場と光源が一体化した内照式流路において伝熱実験を行い,数秒程度の光照射によって粘弾特性・伝熱性能・圧力損失が変化することを示した.同様の実験を今後【①】のPRFについて行うことで,PRFによる能動的な熱流動制御の可能性を示し,工業的応用に有用な設計指針を提案することができると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,ADCAとCTABから成るPRFについて,粘弾性変化に関わる波長の特定や,照射光波長に応じた可逆的な粘弾性変化の確認に成功している.次年度はこの成果に基づいて溶質の種類や濃度,光照射方法を改良することでPRFの光応答性を更に高めることが可能であると考えられる.また,本年度はPRFの粘弾特性と伝熱性能,流動特性の関連を解明するための実験系・手法を確立するとともに,不可逆な粘弾性変化を呈するPRFについて可視化・伝熱データを蓄積し,流れ場への直接的な光照射の有効性を示すことができた.本年度得られた知見は,可逆的変化を示すPRFの伝熱特性・流動特性の評価および流れ場での実証実験のための足掛かりとなるものであり,平成29年度の研究計画の円滑な遂行に向けて,おおむね順調な進展が得られたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本年度得られた成果に基づき,①PRFの光応答性の向上,②流動場計測および伝熱実験データの蓄積,③流れ場への光照射による可逆的熱流動制御の実証実験に注力する.①-③で得られた知見からPRFによる能動的な熱流動制御の可能性を示すとともに,工業的応用に有用な設計指針を提案する予定である.研究計画を遂行する上での留意点については以下に記す. 【①PRFの光応答性の向上】:ADCAとCTABから成るPRFについて光照射装置や溶質濃度等の最適化を行うことで,光応答性の改善に取り組む.また,界面活性剤の疎水基の長さと粘弾特性との関連に着目し,CTAB以外の界面活性剤を利用してより短時間で粘弾性の大きく変化するPRFの作製も試みる. 【②流動場計測および伝熱実験データの蓄積】:本年度確立した実験装置・手法に基づいて,可逆的な粘弾性変化を示すPRFを用いた場合の熱流動特性の評価を行う.UV・可視光照射により可逆的に熱流動特性が変化することを確認し,③の実証実験に向けた基礎データを蓄積する.また,不可逆的な粘弾性変化を示すPRFについても本年度に引き続いて実験を継続し,粘弾性と流れ場の様式,伝熱特性との関連やその制御メカニズムを明らかにするための知見の収集を行う. 【③流れ場への光照射による可逆的熱流動制御の実証実験】:UV光・可視光照射装置と流路とを組み合わせた実験システムを構築し,流れ場への直接的な光照射による可逆的な熱流動制御を試みる.更に,上記の流れ場における伝熱性能と圧力損失の計測結果に基づいて,伝熱媒体としてニュートン流体を用いる場合と比較した際のPRFの優位性を示す.
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