木材への液体含浸は、木材の「燃える」「狂う」「腐る」という性質の改善や新たな機能性付与を目的として行われるが、通導阻害部(閉鎖壁孔やチロース)に起因する液体浸透性の低下が問題となっている。そこで水撃作用の応用による通導阻害部の貫通を考えた。具体的には、木材外部の液体をある液圧から別の液圧まで急速に加圧した場合、浸透液体の先端部(通導阻害部)では水撃作用による圧力振動が生じ、液圧の急上昇による衝撃力とその後の急低下によるキャビテーションの作用で、通導阻害部の破壊が期待される。本研究の目的は、木材への液体浸透に及ぼす水撃の影響を確かめることである。昨年度の試作装置による実験では、水撃は木材への液体注入量にほとんど影響しないことがわかり、水撃の強さが十分でない可能性が示唆された。そこで、水撃の強さに関する理論解析を行い、水撃の効果を高めるための因子について検討した。 水撃の発生は、液体(水)で満たされた高圧の管Aと常圧の管Bを1つバルブで連結し、バルブを開放したときの管Bのバルブとは反対側に設置した圧力計で液圧の時間変化が減衰振動挙動を示すかどうかで判断できる。また水撃は最大液圧と平衡液圧の比(最大液圧比)が大きいほど強いと判断できる。そこで圧力計での液圧を、水撃現象の記述に必要な液体の運動・粘性流動・弾性圧縮変形を考慮して立式した2階の線形非斉次微分方程式を用いて計算した。その際、管B中のバルブ付近の液圧を、加圧の緩急を表す時定数を含む指数関数で表して同方程式に代入した。 実験では、最大液圧比は1.15だった。一方、理論計算では、最大液圧比は1と2の間にあり、時定数が小さくなるに従い2に近づくことがわかった。これより、実験で得た水撃は十分に強いとはいえないこと、及び水撃を強くするには時定数を小さくする必要があることが明らかになった。時定数を小さくすることが今後の課題である。
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