研究実績の概要 |
複雑な構造を持つ大脳新皮質は6層からなる層構造を持ち、運動・知覚・思考などの中枢として機能する一方で、その障害は様々な神経疾患の原因となるため、再生医療などの臨床応用も期待される神経領域の一つである。研究代表者はこれまで、3次元でのマウス・ヒト多能性幹細胞からの大脳新皮質への分化誘導条件を明らかにしてきた。しかしながら、これまでの報告では主に発生期の初期に相当する組織の誘導を行っており、生体で見られるような6層構造を持つ成熟した大脳新皮質組織の誘導は達成されていない。本年度は、パターニング因子の添加条件やガス透過性の改善などの培養条件を調整し、長期での安定した3次元培養を確立することで、ヒト多能性幹細胞(胚性幹細胞(ES細胞)、及びiPS細胞)より、3次元構造で6層構造を有する成熟した大脳新皮質組織の誘導条件の確立を行った。 具体的には、神経分化誘導法として確立されているSFEBq法を用いて、ヒトES及びiPS細胞から3次元での大脳皮質組織の誘導を行い(Kadoshima, Sakaguchi et al. PNAS. 2013)、安定的に神経上皮が形成される条件、長期培養を可能とする条件の検討を行い、血清非存在下の培養、40%酸素化の培養、ROCK inhibitorの高濃度での添加の3つの条件が、上皮構造が安定した長期培養を可能とするために必要であることを見出した。この、改変した分化誘導法によって、1層および4-6層を有する大脳新皮質組織の分化誘導に成功した。第4層を持つヒト多能性幹細胞由来の大脳新皮質組織の分化誘導は前例がなく、大脳の入力部の分化誘導に成功したという意義を持つものである。
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