転写後制御において、RNA結合タンパク質(RBP)はmRNAの運命決定を司る中心的役割を果たしている。近年、免疫制御においても転写後制御因子の重要性が注目されつつある。そこで炎症応答におけるRBP-RNA結合のダイナミズムを理解することは、新たな転写後制御機構の開拓にとって不可欠である。本研究の目的は、免疫細胞において炎症応答に深く関連するRBPを同定し、その制御機構を解明することである。 平成28年度では、炎症誘導に関連するRBPを網羅的に捉えるため、oligo-dT capture法及び定量的質量分析を用いてmRNA interactomeを同定した。この方法により、免疫細胞の活性化前後におけるmRNA interactomeのダイナミックな変化を捉えることに成功した。その結果、T細胞株で同定された700程度のRBPのうち、細胞の活性化に伴いRNAとの結合が増加するRBP群を同定した。この背景には、炎症制御に深く関与した転写後制御機構の存在が示唆される。実際に、この中にはRNA分解を介した炎症制御因子であることが知られているZc3h12aが含まれていた。特に、RBPの発現自体が細胞活性化によって強く誘導される遺伝子に着目し遺伝子Xを同定した。遺伝子Xはインターフェロン誘導性遺伝子であり、ノックダウン実験によりI型インターフェロン産生を負に制御することがわかった。平成29年度では、この遺伝子Xに関して個体レベルでの解析を可能にするためノックアウトマウスを作製した。現在、このマウスを用いた遺伝子Xの機能解析を行っている段階である。また、遺伝子X以外にも細胞活性化に伴いRNAとの結合の増加が認められる、機能未知なRBPを同定しており、免疫制御の観点から引き続き検討を行っていく予定である。本研究により、免疫制御に関わる新たなRNA制御機構の解明が期待される。
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