研究課題
心不全における慢性炎症が近年注目されている。しかし、慢性炎症に引き続き生じる線維化のプロセスに関しては未解明な部分が多い。一方で、動脈硬化研究から我々の注目しているmicroRNA-33 (miR-33)は細胞内コレステロール維持に働き、動脈硬化促進作用があるため治療の標的として臨床応用の可能性がある。miR-33が標的とする遺伝子は細胞内・細胞膜コレステロール管理に重要で、炎症とも深く関わっている。そこで、動脈硬化と同様に慢性炎症が重要な役割を担う心不全においてのmiR-33の役割を検討することとした。miR-33欠損マウスにおいて圧負荷心不全モデルを作成したところ、線維化が軽減される一方で、慢性期に左室収縮能の低下を認めた。心臓においては、miR-33は線維芽細胞で優位に発現を認めたため、線維芽細胞に注目した。miR-33欠損線維芽細胞は増殖能が低下しており、脂質ラフトの現象を認めた。また、Periostin-CreマウスとmiR-33floxマウスを掛け合わせて、心臓線維芽細胞特異的にmiR-33を欠損させたところ、全身の欠損マウスと同様に、心臓の線維化が軽減された。さらに、心不全患者からの生検サンプルでmiR-33a/bを測定したところ、心不全の重症な患者ほど、miR-33aの発現が低下していることが判明した。これらの結果から、miR-33は線維芽細胞の増殖に関与し、心臓の線維芽細胞の活性化および線維化促進に関わることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
miR-33欠損マウスおよび心臓線維芽細胞特異的miR-33欠損マウスを用いて、miR-33と心臓線維化に関する研究を予定通り進めることができた。また、平成29年度の実験予定であったヒトサンプルの解析も開始できた。
線維芽細胞の増殖能に関わる機序をさらに解明する予定である。miR-33欠損細胞において、細胞増殖にかかわる遺伝子あるいは細胞増殖を抑える遺伝子の活性について検討し、miR-33およびコレステロールとの直接的な作用機序を解明する。また、マイクロアレイやRNA-seqを用いて、変動遺伝子群を網羅的に同定し、関連のあるシグナル伝達経路の探索、新規標的遺伝子の探索を行う。また、心臓以外の臓器での線維化にも関与するのか検討を進める予定である。線維化のプロセスは、心臓に限らず、さまざまな病態および創傷治癒において重要である。心臓において線維化軽減を認めているが、他の臓器、例えば皮膚の創傷治癒モデルや腎臓の線維化モデルでも同様の現象が起きる可能性がある。すでに作成したfloxマウスと(腎・肝など)各臓器特異的なCreマウスを掛け合わせることで、各臓器で特異的にmiR-33を欠損したマウスを作成できる。各臓器での評価を行うことで、治療標的としての可能性を検討できるとともに、臓器特異性を超えた線維化のプロセスに関する新しい知見を得られる可能性がある。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
Circulation Research
巻: 120 ページ: 835-847
10.1161/CIRCRESAHA.116.309528