研究課題/領域番号 |
16H06903
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福光 剣 京都大学, 医学研究科, 特定病院助教 (70700516)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 再生医療 / 組織工学 / 創薬 |
研究実績の概要 |
肝臓の機能解析は、疾病の治療目的だけでなく、創薬におけるスクリーニング検査においても重要である。しかし、肝細胞は通常の平面培養はもとより、コラーゲンゲル培養といった特殊な三次元培養においても形質の維持や増殖は困難である。昨今iPS細胞などの多能性幹細胞を肝細胞に分化誘導する研究は盛んであるが、肝細胞の機能を効率よく維持する培養法は未だ確立されていない。 近年ティッシュエンジニアリングの技術の進歩に伴い、生体肝臓由来の3次元スキャフォールドを用いて肝臓組織をin vitroで作成することが試みられてきた。臓器に界面活性剤を還流すると細胞成分のみが除去されExtracellular matrics(ECM)が3次元構造を保持したまま残存する(脱細胞化)。その3次元ECMを足場として新たな細胞を注入し定着させることで(再細胞化)臓器をある程度まで再構築させる事ができる。2010年、肝臓において脱細胞化および再細胞化した肝臓をin vitroで作成することに成功した報告がなされた。 今回の研究では、生体の肝臓から細胞成分のみを除去した「脱細胞化肝臓組織」を足場とすることで、新たな肝細胞の三次元培養法を提案する。生体の肝臓から細胞成分のみを除去し、細胞骨格のみを温存させた三次元のスキャフォールドは、細胞にとって、より生体に近い環境で培養する事ができると考えられ、本方法を用いることで肝臓の疾患解析だけでなく、再生医療の細胞源確保や創薬スクリーニングへの応用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・脱細胞化肝臓へ注入した肝臓と、通常のコラーゲン培養した肝細胞との、比較検討を行ったところ、三次元培養した肝臓組織のほうが、アルブミン分泌能が高く、またKi67染色にて分裂能が高いことが示された。 ・成熟肝細胞だけでなく、マウス胎児肝前駆細胞を脱細胞化三次元スキャフォールドに注入して機能解析したところ、胎児肝前駆細胞を用いた方が、アルブミン分泌能やKi67陽性細胞の率が高く、増殖能が高いことが示された。 ・脱細胞化肝臓スキャフォールドについて、正常肝だけでなく、硬変肝の脱細胞化肝臓スキャフォールドを用い、マウス肝細胞を注入して培養して機能解析したところ、明らかに硬変肝のスキャフォールドを用いて培養する方がアルブミン分泌能などの肝細胞機能が低く、機能が障害されたことが判明した。 ・間葉系細胞との共培養について、成熟肝細胞のみを三次元スキャフォールドに注入して培養するよりも、類道内皮細胞を用いて門脈壁を裏打ちするように再細胞化して成熟肝細胞と共培養することで、肝細胞機能を高く維持できることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
・成熟肝細胞を脱細胞化スキャフォールドに注入して培養した際の肝細胞機能評価に関して、cxcr4、cyp3a4など、より多くのマーカーによる評価を行うことでデータを蓄積する。 ・共培養を行う間葉系細胞として、類洞上皮細胞だけでなく、線維芽細胞、胆管上皮細胞なども含めて共培養し、肝細胞機能維持を評価する。 ・肝細胞機能評価のみではなく、維持されるメカニズムとして、特定のシグナル伝達経路についても活性化されるのかどうかを評価する。 ・三次元スキャフォールドについて、正常肝臓のECMだけでなく、硬変肝から作製した三次元スキャフォールドを用いて肝細胞を培養し、機能を比較することで、硬変肝のECMが肝細胞に及ぼす作用についてシグナル経路の活性化の観点から解析を進める。
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