整形外科において人工関節手術は増加の一途をたどり手術自体の増加に伴い術後感染数も増加している。整形外科インプラント感染は難治性となることが多いが、その原因としてインプラント上へのバイオフィルム形成が挙げられる。バイオフィルムを形成し難治性となる代表的な原因菌として黄色ブドウ球菌が挙げられる。通常はバイオフィルム形成後は、細菌は宿主の免疫や抗菌剤に対して抵抗性となるが、バイオフィルム形成途中ならば抗菌剤で対応できる可能性がある。平成28年度は、マウス骨髄炎モデルを確立し、走査電子顕微鏡によるインプラント上のバイオフィルム面積の定量法が再現性を持って行えることが確認できたが定量モデルを用いて感染14日目以降に抗菌剤を投与しても、定量的定性的にバイオフィルムを破壊することはできなかったため、平成29年度においては、術前からの抗菌剤全身投与において、バンコマイシンとゲンタマイシンではバイオフィルム形成を有意に抑制することができた。術翌日からの投与でも有意にバイオフィルム形成を抑制できており、バイオフィルム形成阻止を含めた効果が期待できた。セファメジンにおいては術前からの投与ではバイオフィルム形成はやや減じたものの、術後1日目からの投与では未治療と同様のバイオフィルムを形成してしまい、バイオフィルムの抑制する効果は乏しいことがわかり、抗菌剤の種類による抗バイオフィルム能力の違いが確認された。今後内服投与の組み合わせの検討や局所投与の検討を行うことにより、インプラント上のバイオフィルム形成阻止に向けて臨床に還元することができると考える。
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