認知症は、超高齢社会の本邦において大きな社会問題の一つである。しかしその根本的治療法は解明されていないため、いかにして認知症発症を防ぐか、あるいは進行を抑制するかという早期治療が重要である。特に生活習慣病との関連性は疫学研究でも明らかとなっており、発症前の生活習慣改善は認知症予防に多いに有効と考えられる。中でも運動の効果は近年非常に注目されている。運動は認知症に限らず、脳機能そのものに対してポジティブな効果を発揮することが報告されており、あらゆる生活習慣の中でも認知症予防度と最も相関率が高いことが、疫学調査で示された。 申請者は、運動による認知症予防メカニズムを、分子生物学的手法を用いて検討した。運動に伴い発現が促進するタンパク質に着目し、アルツハイマー病原因タンパク質のアミロイドベータに対して抑制効果を発揮する事を明らかにした。これは培養細胞系を用いた実験によって明らかにされた。この現象が動物においても確かであることを証明する必要があり、また運動という非薬剤療法の特徴を生かした方法でも同様の現象が見られるのかを確認する必要がある。そこで、このメカニズムを動物やヒトに発展させることで、運動が認知症病態に対して予防、抑制効果を与える根拠、それに基づく早期運動介入やスクリーニングの意義を明らかにする検討を行っている。現在は、マウスに運動介入を行うことで、認知機能障害やアルツハイマー病理にどのような変化が起こるのかを検討している最中である。
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