本研究では、酢酸セルロース基材にセルロースナノファイバーを補強材として混合することで、高透水性かつ高強度を両立した新規水処理膜を作製することを目的としている。膜強度と透水量の増加を両立させるためには、疎水性である酢酸セルロース中において親水性のセルロースナノファイバーが十分に分散することが必須である。効率的なセルロースナノファイバーの分散性の向上のために、酢酸セルロースとセルロースナノファイバーの親和性を実験的に評価できる手法が必要となる。本年度は昨年度調製したセルロースナノファイバーと酢酸セルロース間の親和性について明らかにする手法を検討した。そのため、2成分間の接着力を原子間力レベルで測定可能なコロイドプローブAFM法の適用可能性を検討した。疎水的なアルキル鎖を有する4級アンモニウムイオンを用いて表面改質を行ったセルロースナノファイバーの薄膜フィルムを作製した。AFMカンチレバーにシリカ粒子とポリスチレン粒子を接着させ、このセルロースナノファイバーフィルムに接近させた。カンチレバーの接近・離脱時における両成分間の接着力を測定することで、セルロースナノファイバーの表面改質法による違いを評価した。その結果、異なる表面構造を有するセルロースナノファイバーからなる薄膜フィルムは、粒子との間で異なる接着力を発現することが示唆された。さらに、陽電子消滅法によって測定した膜内部の空孔構造は、セルロースナノファイバーの表面改質法によって異なることが示された。従って、表面改質に用いる4級アンモニウムイオンの種類によって酢酸セルロースとの親和性が異なることで、作製した複合膜の透水性能や分離性能といった膜性能、構造特性、機械特性が異なる可能性が示唆された。
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