研究課題/領域番号 |
16H06913
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
高木 圭子 京都工芸繊維大学, グローバルエクセレンス, 助教 (30401938)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞死 |
研究実績の概要 |
初年度の目標は、絶食によって誘導される濾胞の細胞死と①昆虫ステロイドホルモンの関与の解明と、②関連遺伝子の探索の二点であった。 ①昆虫ステロイドホルモン合成・代謝に関与する遺伝子のRNAiを行った。遺伝子によっては体内のホルモン濃度は上昇あるいは減少する。しかしいずれの場合も、細胞死の誘導はなされなかった。次に、直接個体に昆虫ステロイドホルモンを注射して濾胞に与える影響を調べた。しかしコントロールとして溶媒を注射した場合でも、絶食時と同様の濾胞の細胞死を誘導した。昆虫ステロイドホルモン溶液で誘導される細胞死の割合と比べても差がなかった。 以上の結果と、予備実験で得られていた、絶食でも昆虫ステロイドホルモン濃度に変化が現れないという結果と合わせて、絶食によって誘導される濾胞の細胞死に昆虫ステロイドホルモンは関与する可能性は低いと結論づけた。 ところで、溶媒を注射した場合でも同様の濾胞の細胞死が起こるという現象は興味深いと考えている。この細胞死は、絶食で誘導される細胞死と同様、卵黄合成期初期でのみ確認された。つまり、絶食のみならず、ストレス全般に応答する機構が、この時期の濾胞に時期特異的に備わっている事を示唆する。 ②関連すると予想される遺伝子のRNAiを網羅的に行った。評価方法は二種類、絶食で誘導される濾胞の細胞死を抑制できる遺伝子、もしくは十分な餌を食べていても細胞死を模倣できる遺伝子。細胞死を抑制できた遺伝子は今のところ、カスパーゼとオートファジー関連遺伝子(Atg-1)の二つである。濾胞の細胞死を模倣できた遺伝子は、インスリン受容体とその下流のAktであった。有力な候補の一つであったアミノ酸代謝に関与するTOR遺伝子は予想に反して濾胞に影響を与えなかった。またインスリン受容体で誘導される濾胞の細胞死は、カスパーゼとAtg-1のRNAiによってやはり抑制された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は①昆虫ステロイドホルモンの関与の有無の解析、②関連遺伝子のスクリーニングを行った。また次年度には候補遺伝子の相互関係を明らかにするため、遺伝子の発現解析を③realtimePCRを用いて時間の経過に伴う発現量の変化の解析、④遺伝子が機能する場所を解析するためにin situ hybridizationおよびimmunohistochemistryを行う予定である。 ①においては可能性は極めて低いと結論づけた。理由は、体内のホルモン濃度を人工的に上昇もしくは減少させても、同様の細胞死を誘導できないなどの結果を得たからである。また、直接ホルモンを個体へと注射してみたが、ホルモンを含まない溶媒のみの注射によっても細胞死が誘導されてしまったことから、実験系を構築する事ができなかった。しかしこの結果は、濾胞の細胞死が、絶食に限らない、一般的なストレス応答であることを示唆しており、今後非常に参考となる結果であると考えている。 ②と③は一部平行して実験を行っており、ほぼ計画通りに進行している。これまでにインスリン関連遺伝子と細胞死関連遺伝子が候補にあがっている。さらにrealtimePCRによる解析を行ったが関連性は見出せていない。インスリン受容体は膜受容体であるため、シグナル伝達には、タンパク質のリン酸化が重要な役割を果たしているため、おそらく絶食による細胞死は翻訳後調節が深く関与するものと考えられる。したがってrealtimePCRによって関連性が見られなかったという結果は、矛盾する物ではないと考えられる。そこで今後は抗体などを用いてpost transcriptionalな調節に解析の焦点を移行させたい。 ④に関しては、現在プローブの作成に着手しており、計画通りである。 以上の理由から、進捗は(2)おおむね順調に進展している、ものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も基本的には研究計画に乗っ取って研究を進める。濾胞の細胞死が観察されるのは卵黄合成期初期であることから、時期特異性を規定する機構がある事が考えられる。関連遺伝子の発現部位を詳細に解析し、卵黄合成期初期特異的に発現、もしくは発現の減少が見られる遺伝子を特定する。具体的には、初年度に得られた遺伝子の発現部位をin situ hybridizationおよびimmunohistochemistryによって特定し、細胞死との関連性をさぐる。問題点として、実験動物であるコクヌストモドキに使用できると明らかになっている抗体の数が少ないことから、immunohistochemistryを行うに必要な抗体の入手が難しい可能性がある。その場合はin situ hybridizationの結果をもとに推察する。また、初年度では関連遺伝子の探索は、主に栄養関連遺伝子と細胞死関連遺伝子を対象に行ったが、次年度では探索の対象を広げる。例えばストレス応答に関与するであろうもの、具体的にはMAPKなどを想定している。これは、初年度に得られた予想外の結果のひとつに、Injection Bufferを注射しただけで、絶食時の濾胞の細胞死とよく似た細胞死が観察されたためである。この結果はおそらく、濾胞の細胞死が飢餓状態だけでなく、一般的なストレス応答による物である事を示唆する。こうして得られる結果を総合的に考察しまとめることで、次年度には本研究を完了させたい。
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