申請者は、認知機能を有する自己組織化ネットワークアーキテクチャの確立に取り組んでいる。大規模、複雑なネットワーク、とりわけあらゆる「モノ」が通信機器としてのポテンシャルを持ち、それらが流動的に変化し続けるIoTを対象としたとき、システム管理者が互いに性能や状態の異なる全ての機器を管理し続けることは実質不可能であり、また各機器が取得可能な情報は、不確実(不完全、あいまい、かつ動的)なものとなる。このような環境下では、不確実な情報に基づいて機器自身が思考し、学習し、判断し、行動の選択を行うことが必要となる。 29年度において、申請者は、ヒトのグループでの集団的行動選択において見られるflexible leadershipの概念をネットワーク制御へと応用した。ヒトのグループにおいては、各々の意思決定者が、自身の有する情報に対する信頼度に基づいて、自身の役割を柔軟(flexible)に変更する。つまり、自身の情報に対する信頼度が高い意思決定者は、自身の情報に基づいて行動の決定を行う傾向が強くなり、他者を牽引するリーダーとしての役割を担う。一方、自身の情報に対する信頼度が低い意思決定者は、他者の行動に追従する傾向が強くなる(フォロワー)。結果、情報の信頼度の高い意思決定者(リーダー)が、情報の信頼度の低い意思決定者(フォロワー)を牽引し、グループ全体として、適切な行動選択が達成される。申請者は、無線センサネットワークにおけるチャネル選択を題材として、flexible leadershipの概念を導入した手法を提案した。そして、ネットワークシミュレーションを通して、情報が不確実な環境下であっても、信頼度に基づいたノード同士の協調により、適切なチャネルの選択が実現できることを示した。
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