近世中期(18世紀)前半に加賀藩主と徳川将軍に仕えた儒者、室鳩巣(1658~1734)の漢詩において盛唐詩が頻繁に模倣されたことの歴史的背景について、詩語の分析、漢詩制作の経緯・状況、同時代日本における盛唐詩の模倣との比較を通して、具体的に考察した。その結果、鳩巣の漢詩では、特に、理想の君臣関係を表現する際に、好んで盛唐詩に由来する語や趣向が用いられたことが判明し、その背景には、和習の多い林家の漢詩文に対抗すべく、同時代の海外(朝鮮や中国)にも劣らない、和習を排除した漢詩文を作ることで、徳川の治世を古代中国の再来と見做す目的が介在していたと考えられることを指摘した。
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