研究課題/領域番号 |
16H06922
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 一 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (00748973)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 東洋史 / 縉紳全書 / 官僚制度 |
研究実績の概要 |
本研究は中国清代の官僚名簿である「縉紳全書」に対する研究を行う。縉紳全書は清代の官僚に関する膨大な情報が記載されており、さまざまな角度から研究を行うことができる。ただし縉紳全書そのもの関する基礎的研究が欠落しており、まずはそこから検討を進める必要があった。 よって昨年度は北京にて2度の資料調査を行い、これまで影印出版されていなかった縉紳全書を収集することができた。特に18世紀前半の縉紳全書はこれまでほとんど発見されておらず、貴重な資料を収集することができた。さらに第一歴史トウ案館にて縉紳全書刊行に関する当時の行政文書を発見した。これにより、中央政府の縉紳全書に対する意識を読み取ることができた。 本申請ののち、縉紳全書の基礎情報に関する重要な論文が発表された。まず任玉雪等「清代縉紳録量化数据庫与官員群体研究」(『清史研究』2016-4、61-77頁)によって、香港中文大学と上海交通大学が共同で莫大な予算を投入し、世界中の縉紳全書を収集しデータベース化しようとしていることが判明した。また劉錚雲「按季進呈御覧与清代縉紳録的刊行」(『中央研究印歴史語言研究所集刊』87-2、2016、345-374頁)によって、縉紳全書が18世紀中葉に中央政府の管理下、北京の書肆によって刊行されるようになったことが明らかにされた。以上2つの論文から、本研究の課題に関するいくつかの重要な知見を得ることができた。 また収集した縉紳全書はアルバイトを雇用してデータ入力を行った。これにより、これまでの自身の研究と照らし合わせて地方官僚人事や地方行政に関する研究と合わせて、制度運用の実態を解明することができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究実施計画では(1)国内外の所蔵機関に散在する縉紳全書を収集し、目録を作成する(2)徳川日本の大名・幕府の名鑑である「武鑑」に関する研究を参考に、縉紳全書の基礎的研究を行う、という2点を計画に挙げていた。 (1)について、研究業績の実績で述べた任玉雪等の論文によって、中国・日本・アメリカなどの所蔵機関における縉紳全書の所蔵状況がある程度明らかになった。ただ、当該論文では詳細な目録が付されていないため、参考にしつつ目録を作成している。また研究代表者の所属機関が変更になったため、目録と解説文を公表するレポジトリも変更する必要があり、現在の所属機関と交渉中である。 (2)について、劉錚雲の論文によって、当初縉紳全書は民間の書肆によって「自由」に出版されていたが、18世紀中葉に中央政府が官僚の人事的情報を提供し、記載内容や出版・販売する書肆を管理するようになったことが明らかになった。しかし、当該論文で明らかにされていなかった、縉紳全書に対する清朝中央(皇帝、六部)の思惑を記した行政文書を北京で入手することができた。 以上、中国・台湾で発表された論文に依拠するところがあるが、当初明らかにすべき点の多くは解明することができた。よっておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず現在作成中の目録を完成させる。特に日本国内の所蔵状況を確認する必要があるため、今年度は国内の資料調査を中心にすすめる。まずは東京大学東洋文化研究所・東洋文庫・国立国会図書館などにある縉紳全書を調査する。その際留意すべきは、なぜ当時の縉紳全書が日本にもたらされたのかということである。特に徳川日本で縉紳全書がどう扱われたのか、これについては輸入書目録や縉紳全書への「書き込み」などから人文学的に検討をすすめる。 次に縉紳全書の基礎的研究について、現在までの研究でその出版背景はある程度明らかになった。よってこれからは、上述の徳川日本における武鑑との比較をふまえて、縉紳全書のもつ近世東アジアにおける位置づけを行いたい。 また前年度にアルバイトを雇用して入力した縉紳全書の官僚データを使って、清代の官僚人事制度や行政制度の運用実態を明らかにする。具体的には、縉紳全書に記載されている地方官人事規定(だれがどのように人事をおこなうと規定されているのか)と実際の人事運用との差異を数量化する。これにより地方官人事の運用実態を明らかにすることができ、清朝の地方統治の特徴を考察することが可能となる。 以上のように研究を進め、1点目については早急に目録を完成・公開する。2点目、3点目については、学会発表を行うとともに、今年度中の学術論文の完成を目指す。
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