研究実績の概要 |
本研究の目的は、国境を越えて移動する子どもたちのホスト国における政治的・社会的・文化的実践を国際社会学の包括的視点から考察し、移民の生活世界への理解を深めるとともに移住者の現実に即した移民政策への還元を行うことであった。本研究では、2000年以降、特に2009年の改正国籍法施行後に来日したフィリピン出身の子どもたちを対象に、以下の三点についてかれらの生活世界を紐解いた。 1)国籍や在留資格などの政治的アイデンティティを巡る対応:2009年に改正国籍法が施行され、仲介団体等の設立もあり、来日が顕著となった。日本とフィリピン両方にルーツをもつ子どもたちにとっての政治的アイデンティティについてインタビュー調査から考察を深めることができた。国籍の取得に伴って子どもたちのアイデンティティを巡る戸惑いが見られ、それは支援するNGOの言説とはズレがあることが確認できた(Hara, 2018a)。 2)教育、労働、階層移動など移住先での社会化に伴う実践:移住先の地域社会において、越境する子どもたちが教育システム、労働市場、社会階層などの不平等な位置にあることは本研究でも、先行研究でも明らかになっている。本研究では、こうした社会的不均等を打破しようとする若者たちの実践に照明を当てた(原, 2018)。 3)二つの国と家族に跨るトランスナショナルな文化的経験:フィリピン出身の移民は、移住後もフィリピンの家族と強い絆で結びついている。本研究でも、越境する子どもたち自身が越境家族のハブとなり、両国に跨る家族の繋がりを維持する存在となっていることを示した(Hara, 2018b)。 以上の研究結果を、行政レベル・国レベルでの政策に還元するため、国際交流センターや市民団体、国内外での大学等での講演活動や関連するイベントの企画を行った。
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