カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)は、細菌感染症に対する切り札的治療薬であるカルバペネムに加えて、アミノグリコシドなどの一般的に使用される他の抗菌薬に対しても耐性を有していることから、CREによる感染症の治療は困難であり、その蔓延は世界的な問題となっている。カルバペネマーゼ耐性はおもに、カルバペネムを分解する酵素であるカルバペネマーゼによって担われ、それらはプラスミドにコードされていることから、細菌個体間で容易に伝播する。これまでに世界各地からCREの特定の系統が優勢に伝播していることが報告されているが、そのメカニズムについてはほとんど明らかになっていない。平成28年度から、タイ由来のCRE臨床株に加えてミャンマー由来の臨床株についても解析対象としてきた。平成29年度はおもにミャンマー由来の臨床株の解析を行い、さらに環境分離株についても解析対象に加えることにより、臨床・環境で優勢に伝播している系統の探索と、それらが保持しているカルバペネマーゼ搭載プラスミドの解析を行った。その結果、臨床・環境どちらからも分離されるタイプの大腸菌系統を同定した。この系統に分類される分離株は同じタイプのカルバペネマーゼ搭載プラスミドを有していることから、クローナルに拡散していると考えられた。現在、この系統に特有な性質について、増殖性やバイオフィルムの形成能などに着目して解析中である。加えて、シークエンスタイプ(ST)147に分類される肺炎桿菌が臨床株として優勢であることを見出した。この系統に属する菌株が有するカルバペネマーゼ搭載プラスミドは複数の異なるタイプに分類されることから、それぞれの株が独立して耐性プラスミドを獲得したことが考えられ、この系統はプラスミドを獲得しやすい性質を有することが示唆された。この系統を用いたプラスミドの獲得性の評価系を構築中である。
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