睡眠時ブラキシズムは、補綴歯科臨床で問題とされる睡眠障害である。ストレスは睡眠時ブラキシズムの原因因子であるが、これまでの臨床研究の結果では、ストレスの作用機序は明らかでない。本研究では、実験的ストレス負荷が実験動物のノンレム睡眠中の顎運動発現特性を修飾する生理学的機序と、ストレス関連部位による運動リズム発生機構を明らかにするため、神経生理学的および行動生理学的な方法を活用した実験を行った。Hartley系雄性モルモットのノンレム睡眠では、反復性の咀嚼筋活動が発生し、その生理学的特性が,ヒトのRMMAと類似したため、動物モデルとして一定の有用性があることが分かった。そして、動物にfootshock刺激による実験的ストレスを与えた後の2時間では、睡眠量特にノンレム睡眠が減少した。同じ時間帯では、反復性咀嚼筋活動の単位時間当たりの発生数は、増加した。しかし、これらの変化は2時間以降にもとに回復した。したがって、ストレス後のノンレム睡眠では、特定の活動パターンの発生に関わる神経機構の活動性を上昇させる可能性が示唆された。さらに、ストレスに関連する扁桃体およびその周囲領域に長時間連続刺激を与えると、リズミカルな顎運動を誘発でき、これらは特に内側核、基底核、皮質核に分布した。そのうち咬筋がリズミカルな活動した顎運動を誘発できた部位は、皮質核に集中した。以上から、扁桃体の腹側領域から、脳幹の顎運動リズム発生に関わる神経網への下行路が存在し、ストレス時の咬筋活動の発現に関与する可能性が示唆された。
|