高齢者における2型糖尿病とサルコペニア(加齢性筋減弱症)との密接な関連が近年注目されている。加齢に伴う筋力・筋肉量・身体活動量の低下が骨格筋ミトコンドリア機能低下をもたらし、インスリン抵抗性が増大することが明らかにされている。さらに、罹病期間が長く血糖コントロールが不良な高齢者糖尿病ではサルコペニアの頻度が増加することも報告されている。一方で、運動効果によりミトコンドリア機能が回復しインスリン抵抗性が改善することは既に証明されており、高齢者糖尿病患者の重症化とQOL低下を防ぐためには筋力・筋肉量・身体活動量にアプローチした効果的な運動療法の開発が不可欠であると考える。そこで、本研究の目的は、アジアの中でも特に高齢者糖尿病の蔓延が深刻化している日本とタイに着目し、両国の高齢者糖尿病と筋力低下の実態と高齢者糖尿病患者への支援状況について課題を明確化し、抽出された課題から、高齢者糖尿病患者に効果的な運動療法について、文化的背景を踏まえながらその具体的方法と内容を検討し、運動療法モデル構築・実践・有効性の評価を行うこととした。 本研究ではまず、60歳以上の糖尿病患者(日本114名、タイ47名)を対象に、サルコペニアの実態とその影響因子について調査した。その結果、両国とも約20%がサルコペニアであることが明らかとなった。また、日本では地域との繋がりの希薄さが、タイでは糖尿病への楽観的思考や喫煙習慣といった自己健康管理への意識や実践の欠如がサルコペニア罹患に大きく影響してることが明らかとなった。以上より、両国において糖尿病を持つ高齢者がサルコペニアを予防するためには、糖尿病管理や健康管理への意識付けとともに、地域でサポートする仕組み作りが重要であることが示唆された。この成果を踏まえ、効果的な支援策の構築と有用性の検証をするために、さらなる研究を進めていく。
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