研究課題/領域番号 |
16H06983
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
河口 範明 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (50642782)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 中性子 / シンチレーター / 単結晶 / フッ化物 / 放射線 / 放射線検出器 / 中性子検出器 / 蛍光体 |
研究実績の概要 |
本研究ではフッ化リチウム(LiF)を母材とした中性子シンチレータの開発を目指している。LiFに蛍光特性を付与するためのドーパントの候補としては、一部の酸化物原料が知られてはいるものの、高い量子効率を有するEu、Ceなどの希土類元素は固溶できない。そのため実現の難易度は高いが、LiFは非潮解性かつ高濃度にLi-6を含有する理想的な化学組成であるため、検出可能な発光量の材料が得られれば革新的な固体中性子シンチレータになる。 平成28年度の検討として1価元素、希土類元素等の各種不純物元素を添加したLiF単結晶の試作、酸化物原料を添加した既知組成のLiF単結晶の評価、放電プラズマ焼結法によるLiFセラミックスの作製条件の検討を実施した。 各種不純物元素を添加したLiF単結晶については多数のサンプルを試作、評価した結果、ほとんどの添加物は発光が得られない結果に終わったが、一部の添加物では、蛍光特性が得られた上、波高分布スペクトルにおいて中性子検出ピークが得られた。現在、結果を精査しているところであるが、高エネルギーフォトンの照射により特性が向上する可能性を示唆する結果も得られており、非常に興味深く、今後検討を進めたい。既知組成の酸化物添加LiF単結晶の評価としては酸化タングステンを添加したLiFを評価し、種々の特性を調べた。波高分布スペクトルにおいて中性子検出ピークを得る事には成功したが、その発光量は90 photons/neutronと極めて微弱で、現時点では独自開発した不純物添加サンプルの方が高い発光量が得られている。また、放電プラズマ焼結法によるLiFセラミックスの作製条件を検討し、透明セラミックスサンプルの試作に成功した。今後、特性の評価を進めていくが、LiFの透明セラミックスは世界でも合成された例がほとんどなく、平成29年度に実施予定の評価結果が非常に興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の検討として1価元素、希土類元素等の各種不純物元素を添加したLiF単結晶の試作、酸化物原料を添加したLiF単結晶の評価、放電プラズマ焼結法によるLiFセラミックスの作製条件の検討を実施したが、各種不純物元素を添加したLiF単結晶については多数のサンプルを試作、評価した結果、一部の添加物では蛍光特性の付与に成功した上に、波高分布スペクトルにおいて中性子検出ピークの取得に成功した。また、現在、結果を精査しているところであるが、高エネルギーフォトンの照射により特性が向上する可能性を示唆する結果も得られており、非常に興味深い。既知組成の酸化物添加LiF単結晶の評価としては酸化タングステンを添加したLiFを評価し、種々の特性を調べた。波高分布スペクトルにおいて中性子検出ピークを得る事には成功したが、その発光量は90 photons/neutronと極めて微弱で、現時点では独自開発した不純物添加サンプルの方が高い発光量が得られていることがわかった。ただし、そもそもLiF:Wの中性子照射かでの発光量を定量的に明らかにしたのは今回の研究が初めてで、極めて興味深い結果のため、現在論文誌に投稿中である。また、放電プラズマ焼結法によるLiFセラミックスについては、作製条件を検討し、結果として透明セラミックスサンプルの試作に成功した。今後、特性の評価を進めていくが、LiF透明セラミックスは世界でも合成された例がほとんどなく、単純に固体化学の観点から見ても非常に興味深い成果で、今後の評価結果が非常に楽しみなところである。以上述べた通り、現時点で新規で興味深い研究成果が得られているため、本研究課題の進捗としては、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
LiF中性子シンチレーターの性能の最大化を目指し、下記方法により、新規組成及び新規形態のLiFサンプルを鋭意開発し、研究を継続する。 (1) サンプルの合成:単結晶の合成は申請者が開発してきたマイクロブリッジマン法、透明セラミックスの開発は放電プラズマ焼結 (SPS) 法を用いる。前者は融液成長法であり、後者は固相反応法であるが、どちらも部材はカーボン材料を用い、また得られる材料の主として欠陥特性に差が生じるために、比較検討を行う事で効率の良い開発が可能である。 (2) 組成・相分析:粉末X線回折法により、サンプルの組成が単相になっているか否かの確認を行う。透明セラミックスに関しては電子顕微鏡を用いた測定も行う。BEI (Back Scattered Electron Image)法では粒界での不純物分布の有無等を精査し、同時に粒径の均一性の評価も行う。 (3) 光物性評価:透過・反射率、ラマンスペクトル、真空紫外から近赤外域までの広い波長域における Photoluminescence (PL)、PL 蛍光減衰時定数評価を行い、基礎物性を把握する。少なくとも PL で発光が見いだせないものは、シンチレータとしても期待できない。 (4) シンチレーション特性評価:研究室の保有する 252Cf 中性子線源を用い、中性子照射時の発光量及び蛍光減衰時定数を詳細に評価する。合わせてガンマ線やX線と言った高エネルギー光子に対しても同様の評価を行い、137Cs線源や60Co線源を用いバックグラウンドガンマ線に対する感度も評価する。更に輝尽・熱蛍光特性を評価する事で、欠陥準位や量を把握する。特性の良い材料を見出した場合には、微量添加元素の最適値探索、もしくは共添加等を試行する事で更なる発光の高特性化を行う。
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備考 |
研究成果に関するwebページ
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