研究実績の概要 |
脊椎動物の脳の最吻側に位置する「終脳(哺乳類では「大脳」に対応)」は、背側の「外套(大脳皮質に対応)」と腹側の「外套下部(大脳基底核)」から成る(図1)。終脳の解剖学的な区画構造や機能を種間比較すると、外套下部は魚類から哺乳類まで比較的保存されている。一方で、外套は同じ綱の種間でさえも大きく異なる。例えば、硬骨魚類の古代魚のチョウザメでは解剖学的区画がほぼ存在しない一方、個体認知を行うシクリッドは種固有の解剖学的区画が存在する[Burmeister SS et al, 2009]。外套は感覚統合・記憶学習に働き、脊椎動物の進化の過程で、大脳皮質の区画構造の複雑化が行動進化を生み出したとも考えられている。しかし、終脳の外套の種多様性が生じる機構は不明である。 成体終脳の外套構造は種間で多様な一方、発生初期の脳形態や遺伝子発現様式は種間で保存されている[Medina L et al. 2014]。そこで、私は多様性の解明には、より後期の生後の脳発達にも着目する必要があると考え、種間で外套構造の多様化が顕著に生じている硬骨魚類を研究対象にした。硬骨魚類ではふ化後、成体まで神経新生を介した顕著な脳発達が見られ、成体脳を構成するニューロンの多く(9割程度)が生後に新生したニューロン由来だと推定されている。本研究はメダカ(Oryzias latipes)を研究対象とした。メダカ外套はゼブラフィッシュと比較して、より複雑な解剖学的構造があり [Mueller T et al, 2011]、ゲノム解析手法も整備されている(ゲノムサイズ:700bp) [Kasahara M, 2007]。申請者は「生後の神経新生を介した終脳発達機構を解明」することを目的とし、メダカの利点を生かして、成体終脳の新生ニューロンの体系的な構造解析を行った。その結果、外套の構築原理(区画構造の創出機構)を発見した。
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