研究実績の概要 |
平成28年度は、『天球について』アラビア語原典の校訂を進めた。本作品は、ベルリン写本で66フォリオにも及ぶ大部の著作であり、全体の校訂の完成には、ある程度の時間がかかることが予想された。とはいえ、すでに関連する2写本(ベルリン写本およびフィラデルフィア写本)の全ページのデジタル・イメージを入手しており、そのイメージ・データの調査に基づいて、すでに、Taro Mimura, “The Arabic Original of (ps.) Mashaallah’s Liber de orbe: its date and authorship”, The British Journal for the History of Science 48 (2015), 321-352で以下のような本作品の校訂指針を打ち出している。まず、両写本を比べると、ベルリン写本は本作品の全体を収録している一方で、フィラデルフィア写本は、いくつかの章が欠落するのみならず、章の入れ替えがみられることから、フィラデルフィア写本に収録されている本文は、のちの学者による編集を経たものだと考えられるため、本作品の校訂を行う際には、より原文に忠実で全ての章の本文を収録していると考えられるベルリン写本を底本としつつ、フィラデルフィア写本の本文と綿密に比べながら、フィラデルフィア写本のほうが良い読みを持つと判断した場合はフィラデルフィア写本の読みを採用する、というものである。この校訂方針に従って、その全体の校訂を完成させた。さらに、当初平成29年度に行う予定だった英訳作業も進めることができた。加えて、11月にボストンで開催されたMESA(アメリカ中東学会)に参加することで、本研究に関連する研究者たちとの情報交換を行った。
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