研究課題/領域番号 |
16H07022
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
守田 逸人 香川大学, 教育学部, 准教授 (10434250)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 日本史 |
研究実績の概要 |
28年度の具体的な成果は、①フィールドとする伊賀国黒田荘(現名張市)一帯に関わる中世史料の発掘・精査、②中世伊賀国黒田荘の地域社会の構造と成立期の社会編成のあり方について論文1本を発表、③同地域に関する古代・中世・近世・近代の各段階の景観復元に関する作業を行った。 ①については、本研究の基礎的な素材となる東大寺文書について寺外に流出した史料の追跡調査を行い(国立歴史民俗博物館・宮内庁書陵部・京都国立博物館・東京大学史料編纂所)、所在不明となっていた史料や学界で知られていない新史料を発掘することができた。 ②については、「中世成立期の社会編成と富の生成・分配の構造」(『歴史学研究』増刊号、2016年)を発表し、荘園制成立期には南都・京都での大寺社造営ブームが同時並行的に展開しており、本研究でフィールドとした伊賀国では巨材搬出事業が大規模に展開して荘園領主層や在地領主層たちの競合が激化したこと、こうした動きの中で中世的な地域社会の構造が編成されていったことを論じた。この成果により、成立期の伊賀国黒田荘のあり方やその中心的な拠点、社会構造のあり方が明らかになり、この地域の現代までの歴史過程を段階的に明らかにしていくという本研究課題の最も基層的な課題について明らかにすることが出来た。 ③については、本研究のフィールドである伊賀国黒田荘(現名張市一帯)に関わる明治期段階の地籍図(公図)の調査・撮影することができた(未完)。また、名張市土地改良区との連携関係を持ち、昭和期の土地改良事業のあり方について分析していく準備が整った。これらの作業をさらに進めることで、中世以降から現代に及ぶこの地域の歴史過程について明確にすることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年11月予算執行以降、校務等の関係で、日程の調整が難しく名張市一帯での現地調査については計5日程度しか出来ていないため、本年度の主要な力点はここ注ぎたい。ただし、現地では、近代以降の農業・土地関係の史資料を保持し、様々な地域の事情に詳しい名張市土地改良区、郷土資料館など自治体との連携関係を深めつつあり、作業の展開は見込めている。
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今後の研究の推進方策 |
【昨年度からの継続作業】 本研究において重要な基礎史料となる中世文書(東大寺文書)の精査、中世文書に現れる調査地区の情報(水田・池・寺社・津・居館・城郭など)のGISへの記録など、昨年度の作業を継続する。同じく、昨年度同様に、本研究に関係する学会・研究会報告、博物館などでの史料展示がある場合には積極的に参加する。 【本年度以降の中心的作業】 現地調査による景観復元作業に力点を置いて作業を展開させていくが、本研究を深めていくうえで不可欠なのは、名張市土地改良区や自治体の協力を充分に得ることである。この点については、幸い昨年度末より関係諸機関との連携関係を構築しつつあり、諸情報や資料提供などの面で連携関係を深めつつある。今後はこうした関係諸機関の協力を得て、昭和期の圃場整備事業に関する土地関係資料の調査や、中心的な調査地区(竜口・三谷)に残されていると考えられる近世以降の区有文書の発掘を行うとともに、民俗行事や習俗・慣行などの聞き取り調査を行いながら、中世以降の景観復元を行っていく。そして、蓄積したデータをもとに、中世以来の景観や地域構造の歴史過程を段階的に跡づけ、報告書や論文などの形で公表していく。 なお、本研究課題は、東大寺領伊賀国黒田荘関係史料として中世以来の史料を多く残す名張市一帯地域のなかでも、2年という時間的な制約から、一部の中心的地区(竜口・三谷)に対象を絞ってきた。現段階において、本研究で設定した課題に対し多くの成果が見込めつつあることから、次年度以降さらに名張市一帯地域に視野を広げて研究を展開させる準備を行っている。
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