29年度の研究実績は、①本研究のフィールドである伊賀国黒田荘故地(現三重県名張市一帯)に関わる中世史料(東大寺文書)の再発掘と調査、②同フィールドのうち、本年度集中的に調査した「竜口」地区における多くの区有文書(近世・近代史料)の発見、③「竜口」地区や隣接する「上三谷」地区の現況(集落・耕地・ため池・用水・寺社・祠分布など)の確認と記録、および明治期の状況の確認と復元、の3点が主要な成果となった。 ①については、明治・大正期に東京大学史料編纂所にて作成された東大寺文書の複製史料(影写本)と、現在東大寺に所蔵される文書群を比較し、明治・大正期以降に流出してしまった文書について分析を進めた結果、東大寺文書の流出のあり方には明治期・大正期の時期によって特徴が見られることを突き止めた。この情報は、流出して現在失われてしまった文書を再発掘するに当たって有力な情報となる。 ②の地区区有文書の発見に至った背景には、昨年度までの継続的な調査と人的ネットワークの構築が進んだことで、地域の方々から得られる協力も次第に大きくなってきたことが大きな要因として挙げられる。したがって、今後その他の地区においても、現地に残されている区有文書を新たに発見できる可能性が極めて高くなっている。史料の散逸は、世代交代が進むこの地域でとくに危惧されるため、現地に残された史料の確認・調査・記録は今後の急務となる。 ③現地踏査により、昨年度集中的に調査を行った「竜口」「上三谷」地域の集落・耕地・ため池・用水・寺社・祠分布などの現況を確認、記録した。 なお、本研究では、対象フィールドのうち、「竜口」「上三谷」地区に絞って研究を進めてきたが、上記のような新出史料の発見などのため、それらの調査結果をトータルに分析してまとめる段階に至らなかった。
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