研究課題/領域番号 |
16H07026
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
三谷 亜里沙 愛媛大学, 医学部附属病院, 医員 (60648096)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 不死化結膜上皮細胞 / ドキシサイクリン誘導性 / 三次元培養システム |
研究実績の概要 |
結膜上皮は、ムチン分泌による粘膜バリア形成、イオンチャネル・ポンプの発現による涙液量コントロールの両面において重要な役割を担うと考えられ、臨床的観点からもその重要性が指摘されている。しかし、分子細胞レベルでのメカニズムを知るための適切な結膜上皮培養細胞が存在しないために、詳細な検討が困難な現状がある。過去に報告された結膜上皮細胞株において、安定的な杯細胞の培養または杯細胞への分化が可能であった例はなく、今後、長期間増殖可能でかつ結膜上皮の特徴・分化能を保持した細胞株の樹立が望まれる。そこで本研究では、ドキシサイクリン(Dox)の有無でSV40大型T抗原(SV40LT)遺伝子の発現が制御できる誘導性SV40LT導入不死化ヒト結膜上皮細胞を作製した。本細胞は、Dox存在下で少なくとも 22 継代以上培養可能であり、Dox非存在下でSV40LTの発現が抑制されることが確認された。さらに、Dox非存在下では、結膜上皮細胞の分化マーカーであるサイトケラチン(CK)13の発現が亢進し、SV40LT発現抑制下において、成熟した結膜上皮細胞への分化が促進されると推測された。このように、誘導性SV40LT導入不死化結膜上皮細胞は、高い増殖能と共に分化能を有することから、機能的に分化した結膜上皮細胞 を安定して用いる実験が可能になると考えられる。また、上皮細胞と実質細胞を3次元で共培養する3次元培養システムを結膜上皮の培養に応用することにより、杯細胞を含む培養結膜モデルの構築を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト不死化結膜上皮細胞(iHCjEC)の作製のため、 ヒト結膜上皮細胞にDox誘導性SV40LT遺伝子およびhTERT遺伝子を導入し、不死化を誘導した。 ドキシサイクリン(Dox)誘導性SV40LT遺伝子は、SV40LTの上流にテトラサイクリン応答因子(TRE)を導入し、Dox存在下でTREの転写を誘導するリバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子(rtTA)を組み込むことによってSV40LT遺伝子の発現を制御できるようにしたものを用いた (Tet-On システム)。これにより本細胞は、Dox存在下では少なくとも 22 継代以上培養が可能であり、Dox非存在下でSV40LTの発現が抑制されることが確認された。また、この細胞株の特性を検討するため、Dox存在下と非存在下における分化マーカー(CK13,19)およびムチン(MUC1、MUC4、MUC16、 MUC5AC)の発現をリアルタイム PCR もしくは免疫組織化学的検査で検討したところ、SV40LTの発現制御が成功した細胞ではSV40LT発現抑制下で分化マーカー(CK13)やムチン(MUC4、MUC16)の発現が亢進することが確認された。このように、誘導性SV40LT導入不死化結膜上皮細胞は、高い増殖能と共に分化能を有することから、機能的に分化した結膜上皮細胞を安定して用いる実験が可能になると考えられる。この結果に基づき、SV40LT発現抑制による分化促進を認める細胞を次年度以降の検討に使用する。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト不死化結膜上皮細胞(iHCjEC)から杯細胞を含む培養結膜上皮モデル(細胞シート)の構築を行うため、コラーゲンゲルを用いた結膜線維芽細胞との三次元共培養を行い、プラスチック上での培養と比較検討する。上皮細胞の培養基質としての羊膜の使用についても検討を行う。また、PFA 固定サンプルを用いて CK13、CK19 の発現に対する免疫組織化学的検討を行うと共に、杯細胞への分化をPAS染色、レクチン(HPA)染色、および MUC5AC、CK7の免疫染色により検討する。本研究では、ヒト結膜上皮細胞の不死化を計画しているが、利用可能なヒト結膜組織は限られ ている。そのため目標とする 4 株以上の作製が出来ない場合には、既に作製している不死化ウサギ結膜上皮細胞(4 株)を用いた検討も同時に遂行し、ヒト結膜上皮細胞に応用可能な培養条件の確立を行う。種々の培養条件において杯細胞への分化が認められない場合には、トリプシン処理にて上皮を除去したウサギ結膜実質上で培養を行う器官培養をオプションとして検討している。また、 iHCjEC における MUC5AC 発現を指標として、基質および増殖因子等の影響を検討することで、結膜における分泌型ムチンの産生制御に関わる因子についての新たな知見を得ることが可能であり、基礎研究の発展に貢献する成果が得られると考えられる。
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