研究の初年度として、所得の帰属に関する認識を深めることを主たる目的とし、以下に記した成果を得た。 第1に、アメリカ連邦税法下における所得の帰属の議論を確認した。そこでは、累進課税制度の潜脱を防止するための理論である点が明示的に意識されて所得移転の法理が発展してきたこと、所得の帰属の本質は、現実に所得を受領することなのではなく、当該所得を処分する権能を有していることと理解されている点を確認した。第2に、わが国の所得の帰属の局面における私法上の法律関係に視点を戻し、その中でも、違法所得に対する課税に係る法律関係についての検討を進めることとした。違法所得をその原因毎に類型化を行うことで、所得の原因となる法律行為が不存在、無効である場合、法律行為が取消または解除された場合において、法律関係に依拠しない経済的帰属が前面に出てくる局面が存在することを明らかとし、また相殺的債務を負担する違法所得への課税が所得税法上いかに位置付けられるかを検討した。この点に関して、研究報告を行うことにより実務家の視点を交えた検討を行うことができた。第3に、IFRSの本人・代理人基準に係る調査を行う前提として、わが国における所得の帰属と所得の年度帰属の関係性について、経済的帰属の観点から考察を加えた。わが国裁判例を詳細に検討していくと、所得の年度帰属という側面においても、所得実現の蓋然性という事実概念を中核に据えた上で、法的権利関係を考慮することにより蓋然性を計測するという方法をとっている点を明らかにすることができた。
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