研究の最終年度として、所得の帰属に関する規範的構成を構築することを目的とし、以下に記した成果を得た。 第1に、前年度までに調査研究した問題意識を前提として、稼得者主義と実質所得者課税の関係について、稼得者主義を所得税法12条に読み込んだ解釈の方向性についての検討を行った。そこでは、実質所得者課税の原則に関する本邦判例が宣言している趣旨である応能負担の原則・担税力との整合的な指向を読み取れることを確認した。第2に、アメリカ連邦税法の調査の結果、アメリカ全体で統一した法による私法関係の規律がなされていないアメリカであっても、紛れもなく私法上の法律関係に依拠した租税法律関係の構築がなされており、そこで重視されていることは、私法上の法律関係に関する「ラベル」ではなく、その「機能」であることを確認できた。わが国では、統一した私法上の法律関係に基づき租税法律関係が形成されることが原則ではあるが、法的効果・機能を捉えるアメリカ連邦税法下での考え方は、わが国租税法学が構築してきた私法関係と租税法律関係という二層構造のさらに深層に存在する経済的所得概念との関係性を一貫的に説明可能なものにするという指摘を行うことができた。第3に、法律関係が、我が国法制度上、経済的事実へと現実化するという着眼点に基づいた所得の人的帰属における視座の転換が、所得の年度帰属における視座の転換にもつながる点を指摘した。その上で、法律的帰属説・経済的帰属説とパラレルな対立をみてとれる権利確定主義と管理支配基準との関係性について、所得の人的帰属と平仄を合わせた解決を図ることができる点を指摘した。第4に、以上を踏まえた上で、これまでの研究成果に関して出版の準備作業を行った。本年度において出版助成資金を得て出版をする予定である。
|