研究実績の概要 |
我々がこれまでに開発した脂質ラジカル蛍光プローブは、脂質ラジカルとのラジカル-ラジカル反応により、安定な共有結合を形成し、蛍光発光を示す。すなわち、脂質ラジカルを検出すると同時に、不安定なラジカル種を安定な蛍光標識体へと変換することができる。そこで、これら蛍光標識した脂質酸化物を含む生体試料を採取し、結合した蛍光団をマーカーとしLC-FL (蛍光検出)による分離・付加体の選定、ならびにMS (質量分析)を行うことで、生体内脂質ラジカルの構造解析が可能となる。そこで、本研究では「疾患発症時に生成する生体内脂質ラジカルの蛍光検出ならびに、構造解析手法の構築」を大目標とした。 前年度に開発した脂質ラジカル解析システムを、疾患モデル動物を用いた評価系へと応用させた。ニトロソアミンは肝臓において代謝活性化を受けることにより、脂質過酸化反応を惹起し、後に種々の肝疾患を誘発する (Min, L., et al., Nat. Cell Biol., 2012)。そこで、これら疾患発症初期課程において、生成するラジカル種の解析を進めた。その結果、11種もの脂質由来ラジカル種の検出に成功し、これらもまた、蛍光強度よりその発生量が定量可能であった。これらは内因性の脂質ラジカルを同定した初めての研究成果である。以上の結果より、本研究では実験動物にも応用可能な全く新たな脂質ラジカル解析法を構築することに成功した。今後更に本手法に改良を重ね、その高感度を図るとともに、検出されたラジカル種に焦点をあてた新たな疾患発症メカニズムの提案が期待される。
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