研究実績の概要 |
本研究では、これまで抜髄の適応になっていた露髄症例においても歯髄組織の保存が可能な新規直接覆髄剤の開発を目的としたものである。 まず、ヒト抜去歯牙歯髄組織からsingle colony selectionにより単離した歯髄幹細胞クローンのキャラクタライゼーションを行った。分化アッセイ系(骨芽細胞誘導。脂肪細胞誘導、軟骨細胞誘導)を用いて、多分化能を有し、またフローサイトメトリック分析法により間葉系幹細胞マーカー(CD73,CD90,CD105,CD146,CD166)を発現する細胞クローンを歯髄幹細胞として実験に使用した。次に、こうして得られたヒト歯髄幹細胞をSema3A含有の象牙芽細胞分化誘導培地にて培養した。その結果、Alizarin Red S陽性の石灰化物形成が有意に促進し、象牙芽細胞関連マーカー因子の遺伝子発現が有意に上昇した。以上の結果から、Sema3Aによるヒト歯髄幹細胞の象牙芽細胞分化誘導効果が確認された。そこで申請者は、Sema3Aがヒト歯髄幹細胞の象牙芽細胞分化を誘導する細胞内シグナルとしてβ-catenin依存的経路に着目し、これまでに、ヒト歯髄幹細胞をSema3Aで刺激した結果、β-cateninの核内移行が促進されることを明らかにしている。本研究では、ヒト歯髄幹細胞をSema3Aで刺激した結果、β-cateninの核内移行を直接的に制御する低分子量GTPaseの一つであるRac1を活性化すること、またRac1のヌクレオチド交換因子(Rac GEF)として機能するFARP2の遺伝子発現が有意に上昇することを明らかにした。さらに、Wntシグナル阻害剤として知られているDickkopf1(DKK1)を象牙芽細胞分化誘導培地に添加することによって、Sema3Aによる象牙芽細胞分化誘導効果が抑制されることが明らかとなった。
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