抗癌剤治療中に生じる味覚障害のメカニズムについて、行動学的、電気生理学的、分子生物学的手法を用いて、その受容・細胞内情報伝達への影響を解明し、未だ明らかでない抗癌剤由来の味覚障害の病態ならびに原因因子を明らかにすることを目的として研究を開始した。 平成28年度はマウスを用いて鼓索神経の神経応答解析を行った。麻酔下でマウスを仰臥位に固定し、気管カニューレを装着する。右側の内側翼突筋を除去後、舌神経から分枝し、鼓室に入る直前で鼓索神経を切断および5mm程度周囲組織から剥離し、銀塩化銀電極にのせた。不関電極を近傍の組織に付着した。舌を囲むフローチャンバーに味刺激溶液を還流させ、その全神経繊維側応答を増幅器に入力し、積分計に入力後得られた波形は、オシロスコープ、オーディオモニタ、PC上パワーラボシステムでモニタリングし、記録した。刺激時間は30秒とし、刺激溶液前後は蒸留水で1分間洗浄した。各味刺激に対する応答は、刺激開始5秒後から20秒間の平均をもとめ、0.1M NH4Clに対する応答の相対値として算出した。 投与する抗癌剤としては臨床でDCF療法として使用されているドセタキセル(タキソテール):植物アルカロイド、シスプラチン(シスプラチン):プラチナ製剤、5-フルオロウラシル(5-FU):代謝拮抗剤を使用することとした。薬剤投与経路として腹腔内投与、静脈内投与法を確立し、抗癌剤が投与されたモデルマウスを作成できる可能性を見出した。 抗癌剤投与マウスでやや鼓索神経の神経応答が低下する傾向であることを発見し、抗癌剤が味覚受容器に影響を与えている可能性を示唆している。今後の味覚受容器の形態学的、分子生物学的評価に繋がると考える。
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