筑後川下流地区をモデル地区に選定し,現地踏査及び既存資料収集により地形および土地利用条件の把握を行った.当該地区に関連する国営事業当時の事業計画資料,出来形図面,標高メッシュデータ,航空写真データについてGISを用いてオーバーレイ解析を行った.さらに当該地区で近年発生した豪雨被害に関する水文データとして解析雨量を用いることで,洪水発生要因及び溢水,浸水過程について土地利用と降雨の二つの側面からから要因分析を行った. これらのデータと分析結果をもとに,当該地区における内水氾濫モデルを構築し,過去に発生した洪水を再現した.またシミュレーション条件として,異なる土地利用状況であれば果たして氾濫しなかったのか,土地改良事業の実施されたことで洪水がどの程度緩和されたのか,農村地域において耕作放棄地や農地転用が進んだことで下流の都市部において氾濫の危険性が増しているのか,といった複数のシナリオを構築し,農村の洪水緩和機能を定量化した.またこれらのシミュレーション結果より,当該地区においてはクリークの劣化に加えて降雨の局所性と土地利用の変化が湛水発生の要因であることを明らかにし,農業水利施設の機能を再確認することができた. 洪水発生のメカニズムを視覚的に表現,視認する手法として,解析結果はVR技術を用いて時空間的(4次元)に可視化した.湛水被害発生の経時変化をVRで表現したことで,クリークの水位管理が被害軽減に大きく寄与することを明示した.農業水利施設の水位管理は維持管理者の裁量によるものであり,適切な管理を持続するためには対象者に洪水発生のメカニズムを適切に認識してもらうことが洪水緩和機能を強化するうえで重要であることを明らかにした.
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