嚥下障害患者は誤嚥を起こしやすいため肺炎のリスクが高く、肺炎を合併した場合、従来の摂食嚥下リハビリテーションによる嚥下機能改善に乏しいことが示されている。そのため、何らかの新しいアプローチが必要である。先行研究では、咳嗽能力向上を目的とした呼気筋の強化が咳嗽能力のみならず嚥下機能改善にも良好に影響したと報告されている。われわれも、嚥下障害患者に呼気筋トレーニング(以下EMT)を実施し、咳嗽機能の有意な向上とともに嚥下機能についても好影響を及ぼしたことを認めた。しかし、EMTによる嚥下機能への影響のメカニズムは十分解明されていない。 平成28年度は、健常者と嚥下障害患者にてEMTを実施した時の咽頭喉頭部の形態的変化を喉頭ファイバーにて観察し、両群とも咳嗽時に比べEMT実施時の方が咽頭筋の収縮が増強したことを確認した。平成29年度は、肺炎の既往を有する嚥下障害患者を無作為に2群に分け、EMT実施の有無にて肺機能や咳嗽機能および嚥下機能に対する影響を検討した。さらには、喉頭ファイバーを用いて咳嗽や強制呼出手技、EMT実施時の咽頭喉頭部の形態的変化を調査した。 4週間のEMTを実施した群は、一秒量、呼気筋力、咳嗽時最大流量において有意な向上を認めたが、EMT非実施群ではすべての項目で有意な変化は認めなかった。また、咽頭喉頭部の形態的変化については、実施群でEMT実施時の咽頭部の収縮が有意に増強していた。 EMTは、咳嗽機能だけでなく嚥下機能改善の効果も期待できるが、その機序は先行研究で示されている舌骨上筋群だけでなく、咽頭筋群の収縮力向上にも影響を及ぼしていることが示唆された。
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