研究課題/領域番号 |
16H07079
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
西東 洋一 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 研究員 (20783567)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | マクロファージ / メタボリックシンドローム / 糖尿病 / 脂肪肝 / 慢性炎症 / 腸内細菌 |
研究実績の概要 |
CD163 WT/KOマウスを用いて、高脂肪食投与による肥満・II型糖尿病モデルを作成し、WTマウスは肥満と共に脂肪肝・内臓脂肪肥大と耐糖能異常を示すが、肥満抵抗性を示したKOマウスでは認められないことが分かった。これらの差異を脂肪組織中のマクロファージの機能的差異(慢性炎症への進展しやすさ等)に基づくと仮定し、3T3-L1脂肪細胞とマクロファージの共培養系によるin vitro実験を行ったが、WT/KOマクロファージ間にin vivoの現象を説明し得るような差を認めなかった。しかし、興味深いことに、肥満化することで肝臓や内臓脂肪(精巣上体脂肪組織)中のマクロファージの総数は増加するにも関わらず、WTマウスにおいてもCD163陽性マクロファージ数は著減していることが分かった。つまり、脂肪蓄積した脂肪細胞や肝細胞と直接接触しているマクロファージの大部分はCD163陰性であるということが分かった。従って、in vivoの実験結果をもたらすWT/KOマウスの機能的差異は脂肪蓄積臓器では無く、吸収臓器内で起こっている可能性が示唆された。そこで、実験計画通り、糞中腸内細菌の抽出と腸内細菌叢の次世代シークエンスを行うこととした。 また、脂肪蓄積した臓器で増加しているCD163陰性マクロファージが単球由来であることは、これまでにも報告がなされている。がんの腫瘍中に浸潤し単球由来マクロファージが大部分を占めるとされる腫瘍随伴マクロファージ(TAMs)も、申請者所属教室の解析では大部分がCD163陰性であることが分かっていた。これらを踏まえると、マウスにおいて「単球由来マクロファージはCD163を発現しない」という新たな仮説が考えられる。研究計画段階で予期しなかった発見であり、こちらに関してもin vitroの解析を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」で記述した通り、マクロファージと脂肪細胞の共培養系では、マクロファージのCD163の有無による脂肪蓄積や炎症惹起性の差が顕著では無く、予期せぬ陰性データであったが、脂肪吸収と腸内細菌叢への解析へ移行することができている。尚、共培養系の実験計画は当初H29年度を予定していたが、前倒しで解析に入ることが出来ている。また、所属教室で以前に行われたCD163と腫瘍の解析で判明していた「腫瘍随伴マクロファージ(TAM)の多くがCD163陰性である」という結果と共に、マウスの単球由来マクロファージがCD163を発現せず、CD163が組織在住マクロファージのマーカーとして有用である可能性を強く示唆する洞察を得たと言える。このことは、未だに結論の出ていない「マクロファージの起源とその体内動態」を研究する上でCD163が非常に強力な道具となる可能性を示しており、新たな研究テーマを開拓したと言える。従って、当初の研究計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
高脂肪食投与下のCD163 WT/KOマウスの腸内細菌叢の変化を次世代シークエンスで捉え、変化した細菌群の解析を行う。可能であれば、その細菌群とマクロファージの相互作用についての解析まで行いたい。また、「現在までの進捗状況」で記述したCD163の組織在住マクロファージマーカーとしての有用性についても、別の新たなテーマとして平行して解析を進めていく予定である。
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