研究課題/領域番号 |
16H07080
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
工藤 恵理子 熊本大学, エイズ学研究センター, 特定事業研究員 (00779176)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | HIV-1 / 潜伏感染 / COMMD1 / HIV-1宿主因子 |
研究実績の概要 |
ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)は、有効なカクテル療法cARTが確立され生命予後の優位な改善が得られたものの未だ根治には至っていない。その要因としてHIV-1の揺する高度な変異性に加え、潜伏感染が挙げられる。cARTに用いられる薬剤は、薬剤耐性ウイルスや潜伏感染細胞には全く奏効しない。従ってHIV-1潜伏感染の分子機構の解明は、HIV/AIDS根治薬および根治療法の確立に急務である。これまでの研究により、HIV-1宿主因子COMMD1が初回感染時にはHIV-1複製を抑制する因子として機能し、潜伏感染時にはHIV-1潜伏感染の維持を増強する因子として機能する。しかし、HIV-1宿主因子が潜伏感染成立に関与しているという報告はなく、未だ潜伏感染成立の分子機構は不明な点が多い。 本研究では、HIV-1宿主因子COMMD1に着目したHIV-1潜伏感染成立に至る新規分子機構の解明を行った。生理的なCOMMD1発現制御は未だ不明なため、Tet-onシステムを用いてCOMMD1の発現量を制御できるクローン細胞の樹立を行った。得られたクローン細胞は、親株と比較してHIV-1受容体(CD4, CXCR4, CCR5)の発現量および細胞増殖能には影響がなかった。樹立したクローン細胞にHIV-1を感染させ、短時間におけるHIV-1複製における影響を検討した結果、以前の報告と同様COMMD1の発現量が高い細胞では、複製を抑制していた。以上より、樹立したクローン細胞は COMMD1の機能を保持し、HIV-1潜伏感染成立に至る分子機構を解明するのに適したクローン細胞であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、HIV-1宿主因子COMMD1の潜伏感染成立に対する機能解明を行うためにTet-onシステムを導入したクローン細胞の樹立を行った。その結果、ドキシサイクリン存在下でCOMMD1発現が増加するクローン細胞を樹立できた。また樹立したクローン細胞においてHIV-1初回感染の抑制効果を示すことができ、これまでの報告を反映した細胞であることを示唆している。またU937およびJurkat細胞において、潜伏感染特異的蛍光標識を可能にしたdouble fluorescent coding HIV-1を用いて潜伏感染した細胞を検出することができた。以上のことから、計画通りに進められたことを考え、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の本研究では、樹立したクローン細胞を用いてHIV-1感染後、長期培養を行い、HIV-1潜伏感染成立に対する影響を検討する。潜伏感染の検出は、TNFαを用いてHIV-1の再活性化により評価する。さらに、HIV-1宿主因子の潜伏感染成立に対する新たな機能を検討するために、エピゲネティクス関連因子やシグナル経路の因子の機能を確認する。また。CD34+多能性前駆細胞(Hematopoietic progenitor cells; HPCs)を含めた初代培養細胞(単球、CD4+T細胞)を用いて潜伏感染のモデルを用いて樹立する。潜伏感染細胞の検出は、double fluorescent coding HIV-1を用いて潜伏感染特異的蛍光を検出する。さらに、COMMD1の発現量およびHIV-1宿主因子の発現量における潜伏感染成立への影響を検討する予定である。
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