研究課題/領域番号 |
16H07086
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
高桑 繁久 鹿児島大学, 理工学域理学系, 教授 (50777555)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 電波天文学 / アルマ望遠鏡 / 連星系形成 |
研究実績の概要 |
本研究は、究極のミリ波、サブミリ波電波望遠鏡「ALMA望遠鏡」を用い、ふたつの星が互いの周りをまわっている双子の星「連星」がどのように形成されているのかを明らかにすることを目的とする。形成途上の連星「原始星連星」には、それぞれの星の周囲のガスと塵の円盤「星周円盤」と、連星系全体を取り囲む「周連星系円盤」が存在している。この周連星系円盤の物質が、どのように個々の星や星周円盤に落ち込んで連星系を成長させているのかを観測的に明らかにすることが、連星形成の理解の一つの鍵であると考えられる。 本年度は、近傍にある代表的な原始星連星 L1551 NE について、ALMA望遠鏡による~0.2秒角での詳細な観測を行い、周連星系円盤の物質の分布、運動の詳細を明らかにすることに成功した。我々のALMAの観測イメージは、2本の渦巻き腕状の構造をした周連星系円盤の構造を描き出している。さらに2本の渦巻き腕は、物質の分布が全体的に西側に偏った、いわゆるm=1 のモードの分布も示している。また周連星系円盤の物質の運動は、全体として連星系周囲を回るケプラー回転運動を示しているととともに、渦巻き腕の間をくぐって中心の連星系に落ち込む運動も示している。観測で得られたこのような周連星系円盤の構造、運動は、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイ」を用いた我々の数値シミュレーションが示す渦巻き腕の構造、およびガスが個々の連星系に落ち込んでいる様相とよく一致している。 さらに個々の連星系周囲の星周円盤の構造も解像することに成功し、星周円盤の空間的な傾きが周連星系円盤のそれとはずれている misalignment の構造も検出することに成功した。これは、周連星系円盤の物質が星周円盤を経ずに直接、個々の星に落ち込んでいることを示している。 以上の成果はアストロフィジカルジャーナル誌に公表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で記述したように、本研究のスタート天体と呼ぶべき原始星連星L1551 NE については、当初の予想を超える科学的に意義深い観測結果を獲得し、かつ米国の1流学術雑誌であるアストロフィジカルジャーナル誌に論文を出版することができた。またいくつか国際研究会においても結果を発表することができた。その意味では本研究は着実に成果を上げている。 一方、もう一つの原始星連星L1551 IRS 5 についてのALMA 望遠鏡による観測が、昨年度予定されていたにもかかわらず実行されなかった。今年度の夏には実行してもらえるように申請し、その申請は採択された。さらに万が一今年度の夏にも観測が実行されない可能性も考え、今回も再度、ALMA望遠鏡の観測提案書を提出予定である。L1551 IRS 5 は L1551 NE に比べ、連星系の質量比や周連星系円盤の角運動量が異なっており、両者を比較することで異なった物理状態における、原始星連星の成長過程の詳細を明らかにすることができると期待される。 また本研究で提案していた ALMA Large Program は残念ながら昨年度は採択されなかった。これについても今年度、再度挑戦予定である。以上のようにして、これまでのところ個別天体のケーススタディに留まっている本研究を、原始星連星一般の成長過程を描ける研究へと進化させていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、とにかく原始星連星の観測サンプルを増やして、原始星連星一般の形成、進化過程を議論できるようにしていきたい。上記に記したように、まずはもう一つの原始星連星 L1551 IRS 5 のALMA観測の着実な実施、データ解析、論文執筆を成し遂げる。さらに今年度再度挑戦予定であるALMA Large Program もぜひ採択させたい。これが通れば、原始星連星系のサンプルが5-6倍は増えることが予想され、統計的な議論が可能となってくる。 一方、現実的にALMA の観測提案書が期待通りに採択されない可能性も念頭に置いた活動もしていきたい。本年度から申請者は、卒業研究のための学部4年生を受け持つことになっている。そこで彼らに、これまで観測されたALMAアーカイブデータの検索、データ解析を行ってもらう。さらに現在、韓国のグループと連星系について共同研究を始めており、彼らのグループとも協力して、観測サンプルを増やしていく。このようにして着実に個別天体のケーススタディから脱却し、原始星連星一般の研究へと進化させていく。 また本研究の成果を広く一般にアピールし、申請者の所属する鹿児島大学「天の川銀河研究理工学センター」を国際的に認知される研究センターにするべく活動も合わせて行っていきたいと考えている。台湾、韓国などの国際研究会に積極的に本研究の成果を発表していく。また申請者が現在指導している卒業研究の学生にも、ぜひこのような国際研究会に挑戦してもらいたいと考えている。
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