研究課題
Cyclophosphamide (CY)は様々ながん種に頻用される抗がん剤で、大量投与後に生じる心筋障害が臨床上大きな問題となっているがその機序は不明である。CYは、肝臓で様々な代謝物へと代謝される。我々はその代謝物の中でもアルデヒドであるacroleinがCY心筋障害の主因ではないかと考え、その代謝に関わるアルデヒド脱水素酵素(Aldehyde dehydrogenase 1 : ALDH1)との関連に着目し、ヒトiPS由来心筋細胞を用いCY心筋障害の機序を解明することを目的に実験を行なった。H28年度はヒトiPS由来心筋細胞での実験を前に、測定法の確立に必要な予備実験を、マウスを用いin vivoで行った。6週齢のメスのC57BL/6JマウスにCYを腹腔内投与し、心臓及び肝臓の病理学的観察と免疫組織学的観察、GSH濃度の測定を行った。また心臓、肝臓におけるALDH1の有無をウエスタンブロット法で確認し、血球細胞のALDH1の活性を測定した。CY投与後摘出した心臓をHE染色したところ右室、左室共に好酸性化細胞及び空胞変性、アミロイド様沈着を認めた。CY投与後摘出した肝臓においてOil red O染色により脂肪蓄積が確認された。また、この脂肪蓄積はacroleinのスカベンジャーでもあるN-acetylcysteine (NAC)により抑制された。心臓、肝臓中のALDH1の発現を測定したところ、肝臓でより発現量が多かった。またフローサイトメトリー解析によりALDH1の活性を測定することができた。ALDH1活性はNAC濃度依存的に増加することが新たに確認された。今年度行なった実験では、CY投与による心筋細胞の病理学的変化、ALDH1タンパク質の検出、ALDH1の活性測定について測定条件等のデータを得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
本実験の目的はヒトiPS由来心筋細胞でCY心筋障害発症の機序を明らかにすることであるが、その実験に必要な予備実験を行うことができ、フローサイトメトリーやウエスタンブロット、免疫組織学的観察などの各測定の条件等を検討することができ、ALDH1活性がNAC濃度依存的に高くなるなど機序解明の手がかりとなり得る情報も得ることができたのでおおむね順調に進展しているとした。
今後は今年度の実験で得られた測定条件等を基に、ヒトiPS由来心筋細胞を用いたCY心筋障害の機序解明を行う。CY曝露時のヒトiPS由来心筋細胞のALDH1活性を、NACの存在下、非存在下で測定し細胞生存率やacroleinの濃度、細胞形態の変化等を測定することでCY心筋障害の機序解明に迫る。また網羅的な遺伝子発現解析をマイクロアレイ法を用いて行い、CY曝露下でのALDH1関連遺伝子、apoptosisあるいはnecrosis関連遺伝子、心筋の繊維化関連遺伝子等の発現変動解析を行う。
すべて 2017 2016
すべて 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)