悪性腫瘍における転移と予後との関係は周知の事実であるが、口腔癌においてもその治療は困難を極める。近年、悪性黒色腫・大腸癌などの患者の血液中に循環癌細胞(Circulating Tumor Cells; CTC)の存在が解明され、頭頸部癌でも癌化学療法中のCTCの存在と予後との強い相関が示され、頭頸部癌におけるCTCとリンパ節転移や遠隔転移との関与が示唆された。以上の経緯から、頭頸部癌においてもCTCの研究が急速に進み、分離が可能となってきたが、従来CTCの分離は、EpCAM等の細胞表面のマーカーによる方法が主に用いられてきたが、細胞表面のマーカーに依存する方法では、上皮間葉転換(EMT)によりマーカーが減少・消失した癌細胞を分離できないことから、本研究では研究協力者の富山県工業技術センターの高田、大永らにより開発された、特定の細胞表面マーカーを用いないシンプルな流体力学により血液中のCTCを分離・回収するポリマー製CTC分離デバイスを用いた。本手法を用いることはコストの面でも効率的であり、EMTにより形質転換したCTCを分離できる可能性がある点からも有意義である。昨年はマウス尾静脈から蛍光ラベルした接種した口腔癌細胞株を、上記の分離装置を用いて分離することに成功したが、本年度はさらに回収率を高めるとともに、以前当科にて開発した口腔癌転移マウスモデルを用い、同マウスの血中からのCTC分離に成功した。今後は回収したCTCシングルセルよりゲノムDNAを抽出し、次世代シークエンサーによるシークエンス解析を行い接種した口腔癌細胞との比較を行う。さらには口腔癌患者の治療前後の末梢血から分離したCTCシングルセルを用い、シークエンスを行い候補遺伝子をモニタリングし生検組織、摘出組織の細胞および同患者病勢との比較により転移早期診断への応用について検討する予定である。
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